ファイアーエムブレム エンゲージ — ストーリーガイド③

第3章:襲撃者 – 奪われる安寧と決意の旅立ち
穏やかな時間は一瞬にして崩れ去り、物語は大きな転機を迎える。邪竜信仰に傾くイルシオン王国の魔手が聖地リトスに迫り、リュールたちは城内での戦いに巻き込まれる。
そこで愛する母ルミエルとの突然の別れが訪れ、リュールは悲しみを乗り越えて「逃げない」という決意を固めることになる。運命に翻弄されながらも立ち上がる主人公の姿が描かれる、序盤最大の山場と言える章である。
城を襲う黒い影と母の犠牲

夜、リュールはベッドで浅い眠りについていた。すると突如まどろみの中で不気味な夢を見る。
城が赤い炎に包まれ、辺りには死体の山…その中心に、自分自身が立っていた。しかしその姿はいつものリュールとは異なり、両目が血のように赤く染まり、表情も冷酷だった。
夢の中の「赤いリュール」は狂気に満ちた笑みすら浮かべていた。

「これは…私なのか?」
夢を見るリュール本人も理解できないまま、その悪夢から目を覚ます。
「今の夢は何…?」
額に冷や汗を浮かべ、胸騒ぎが収まらなかった。
気になったリュールは枕元の紋章士マルスに問いかけた。
「マルス…教えてほしい。1000年前の私は一体どんな人間だったのですか?」
紋章士マルスは少し沈黙した後、優しくしかし歯切れ悪く答える。「それは…リュール、今はまだ…言えない。君は君のままだよ」的な答えが飛んで来る。
核心を避けるようなマルスの態度に、リュールは胸のざわめきを覚えた。まるで「言いにくい過去」が自分にあるかのようなニュアンスだったからである。マルスが何かを隠していると察したリュールだったが、その時突然、城内に大きな轟音(爆発音)が響き渡いた。

「何事だ!?」と飛び起きると、廊下からクランとフランの叫び声が聞こえて来る。「リュール様、大変です!城内に侵入者が現れました!」 。どうやら城の防衛網を掻い潜り、何者かが内部まで攻め込んできたようだ。
リュールは急ぎ剣を手に取り、ヴァンドレや双子と合流する。駆けつけたルミエルも緊張した面持ちで「皆、無事ですか?」と声をかける。
「敵は何者でしょう…異形兵とは別の、人の軍勢のようですが」とヴァンドレが報告。遠くからは金属のぶつかり合う音や、兵士たちの怒号が聞こえて来る。
敵の狙いは紋章士の指輪の強奪である可能性が高く、最悪の場合邪竜復活に必要な力を握られてしまう恐れがある。

そして、城内マップでの戦闘が始まった。リュール、ヴァンドレ、クラン、フランが先陣に立つ。
敵軍は黒い甲冑やローブに身を包んでおり、その装いから北東のイルシオン王国の兵士であることが示唆されいる。実際、イルシオンは邪竜信仰国であり密かに邪竜復活の儀を進めている勢力だった。
邪竜復活に必要な12個の指輪を集めるため、彼らはまず聖地リトスの指輪群を強奪しようと襲撃してきたのである。敵兵の中には飛行兵であるペガサスナイトも含まれ、上空からの攻撃にフランが槍で対抗するものの苦戦を強いられる。序盤からなかなかの強敵揃いで、ヴァンドレも削り役として奮闘しなければ味方の被害が大きくなる厳しい戦況となっていた。


敵は左右二方向から迫って来たが、リュールたち(というか筆者w)はまず左側の部隊を集中攻撃することに。各個撃破で数を減らして行くが、敵増援が続々現れ防戦一方。
「この調子で押し切れるか…?」と不安が募る中、戦場に朗々と響く声があった。
「今、加勢いたします!」その声の主は、金色の甲冑に身を包んだ若き騎士――フィレネ王国第一王子アルフレッドだった。彼はちょうど数名の騎士団を率いて城に到着したところで、異変を察知し駆け付けてくれたのである!
アルフレッドの隣には斧使いの大柄な男性ブシュロン、さらに弓を携えた赤髪の女性エーティエの姿もあった。彼らはアルフレッドの忠実な近衛騎士(いわゆる“フィレネ王国の王子付き近衛”)であり、この場に同行していたのである!
アルフレッドはリュールに向かい、「遅れて申し訳ありません!私も共に戦います!」と宣言。リュールも「あ、ありがとうございます!」と心強さを感じた。
アルフレッドら3名はそのまま戦列に加わり、戦況は一気に覆り始める。アルフレッド本人はノーブル(槍騎兵)で機動力と攻撃力に優れ、敵陣へ切り込み隊長の如く突撃する。
ブシュロンは斧による重い一撃で敵の槍兵を粉砕し、エーティエは飛来するペガサスナイトを次々と射落として行く。特にエーティエの弓は飛行ユニットに対して絶大な効果を発揮し、プレイヤーも「これで空の脅威は減った」と胸を撫で下ろしたことだろう。
リュールが苦手とする槍使いの敵も、ヴァンドレとブシュロンが前衛となって引き受けてくれる。まさに「頼れる仲間の到着」という王道展開で、混戦だった戦闘は一気に味方優位となった。

その頃、ルミエルは神竜の力で白い竜に変身し、敵を蹴散らしつつリュール達の進軍をサポートしていた。

リュールたちは急いで指輪の間へ駆け込む。指輪の間には数多の台座があり、それぞれに紋章士の指輪が安置されていた。ところが部屋の中央には黒ずくめのフードを被った謎の人物が立っていた。
その人物は小柄な体格で素顔を隠しており、一見すると少女のようにも見えた。「貴様、何者だ!指輪を盗む気か!」とヴァンドレが怒鳴り、リュールも剣を構えて間合いを詰める。

しかしフードの人物は動じる様子もなく、静かに片手を前に差し出した。
「死になさい」低く囁くように言うと、その手には闇のエネルギー球が生み出される。瞬間、強大な破壊魔法がリュール目掛けて放たれたのだ!!
「危ない!」
リュールは咄嗟に防御姿勢を取るが、この一撃をまともに受ければひとたまりもない。間一髪、その闇のビームの軌道に割って入った者がいた。


ルミエルである!!!!!!!!!
彼女は竜の姿のままリュールの盾となり、全身に深々と闇魔法の直撃を受けてしまう。リュールは絶叫する。

ルミエルはその場で倒れ込むが、瀕死の状態でもなお手から光の力を放つ。
その光はソラネルに祀られていたという神秘の秘宝『竜の時水晶』の力だったが、フードの人物はそれを落としつつも闇に紛れて辛くも逃走して行く。
結果的に敵を退けることには成功したが、ルミエルは致命傷を負ってしまう。

リュールは崩れ落ち涙を流す母を抱きかかえ、「しっかりしてください!」と叫ぶ。
フランも泣きそうな顔で駆け寄り回復魔法を施すが、ルミエルの傷は一向に塞がらない。「ど、どうして…?」とフランは狼狽するが、ルミエルは弱々しい声で答える。
「無駄よ…私の身にはもう、癒しの力は効かないの」 。その言葉通り、ルミエルの体は既に常人とは異なる状態にあったのだ。彼女は長年、自身のエネルギーをリュールに与え続けてきたため、もはや普通の治癒ではどうにもならないほど衰弱していた 。

リュールは必死に「そんな…ダメです、死なないでください!」と取りすがりますが、ルミエルは静かに首を振る。
私、あなたの母さんになれて幸せだった
リュールは涙を堪えきれなかった。「嫌です、母上を失いたくありません…!」その嘆きに、瀕死のルミエルは震える手で自らの指に嵌めていた指輪を外す。
それは輝く青い宝石があしらわれた聖騎士シグルドの指輪だった。「聖騎士の指輪をあなたに捧げます」 ルミエルは微笑む。
また、ルミエルは「あなたのために作った指輪も渡したかったけれど叶わなかった…」と悟る。実はシグルドの指輪とは別に、「いつか指輪を渡す」と約束していたのだ。しかし、もう取りには戻れない…。

ルミエルは「12の指輪をすべてを集め、何があっても、何を思い出しても、神竜として最後まで戦って…」 とリュールに全てを託す。
リュールは強く頷いた。
「はい…必ず…」

そして、ルミエルはリュートと指切りをして静かに息を引き取った。
ルミエルは二度と目を開けることはなかった。かくして、神竜王ルミエルの死というあまりにも大きな代償を払いながらも、聖地リトス襲撃事件は終息したのであった。
「母さんの遺志は私が継ぎます…」と心に誓う。一行はしばしの間、亡き王を悼む時間を過ごす。

そこでヴァンドレがアルフレッドに声を掛けた。
「なぜこの地に?」
アルフレッドは今回自分が聖地リトスを訪れた理由を語り始める。彼の祖国フィレネ王国でも、最近になって異形兵が各地で暴れ始めているとのこと。そのため、アルフレッドの母フィレネ女王の使いで神竜王に救援を求めに来ていた。
藁にもすがる思いでアルフレッドは聖地へ援軍要請に来たところ、奇しくも邪竜教団(イルシオン軍)の襲撃に巻き込まれ、このような形で共闘することになったのであった。
「我が国をお救いください」 。アルフレッドの真摯な目を見つめ、リュールは静かに立ち上がった。
リュールは決意の表情を浮かべる。「これ以上、家族を殺されて悲しむ人を増やしたくありません。指輪があるのなら、フィレネへ行くのは私の目的でもあります」
そう力強く宣言するリュールに、アルフレッドは安堵の笑みを浮かべました。傍らでヴァンドレ、クラン、フランも頷きます。「我々もお供いたします」とヴァンドレ。フランとクランも涙を拭う。
こうしてリュールは、亡き母との約束「大陸中の指輪を集め邪竜を倒す」ことを胸に、聖地リトスを後にする決意を固めた。
アルフレッドも感激し、「ありがとう、神竜様。あなたは我らの光です」と感謝を述べる。そして「私はこれからあなたの剣にも盾にも、そして花にもなりましょう」と爽やかに誓った。
この「剣にも盾にも、花にでもなる」というアルフレッドのセリフは、照れ臭いほどのキザな台詞だが、真っ直ぐな彼の人柄が表れた名言として語り草にもなっている。
第3章のラスト、アルフレッド達フィレネ勢を新たな仲間に加え、リュール一行は母の眠る聖地を後にする。「さようなら、母上…。必ず邪竜を封じてみせます」と別れを告げた。
そしてこれより、エレオス大陸を巡る長い旅路が幕を開けるのであった。
背景設定:邪竜信仰国イルシオンと大陸戦争の火蓋

第3章で物語は一気に動き出し、エレオス大陸に再び戦乱の幕開けが宣言された。まず明らかになったのはイルシオン王国の敵対行動。イルシオン王国(聖地リトス北東)では長年邪竜信仰が密かに育まれており、国王ハイアシンスの下で邪竜復活を目論む動きが活発化していた。
具体的には邪竜復活の鍵となる紋章士の指輪を集めるため、他国への侵略を開始していたのである。今回の聖地襲撃もその一環であり、イルシオン軍は不意を突いてリトス城に侵入し「指輪の間」から大半の指輪を強奪。
作中描写ではフードの人物(イルシオン第一王女ヴェイル)が指輪の回収役として潜入していたことが示唆されており、混乱に乗じて聖地保管分の大半を持ち去ったと推測される。
実際、ルミエル亡き後に残った指輪はリュール所持のマルス、形見のシグルド以外ほぼ無い状態となり、敵に大きく先手を取られてしまう。
イルシオン王国は宗教的狂信と魔道の国であり、邪竜復活を悲願とする勢力。王女アイビーら一部には葛藤もあるが、国全体としては邪竜側についたことで、以降エレオス大陸は「邪竜側のイルシオン&邪竜眷属」vs「神竜側のフィレネ・ブロディア・ソルム&紋章士」という構図で戦乱が広がっていくことになる。
この章で既にフィレネ王国への侵略が始まっていると語られたように 、イルシオンは聖地だけでなく四方の指輪を狙って各国に攻め入っている。表向き中立や友好を装っていたイルシオンが牙をむいたことで、大陸全土を巻き込む戦争が避けられない情勢となる。
1000年前の戦争が今、再び繰り返されようとしているのである。
第3章終盤でアルフレッドから語られたように、フィレネ王国も既にイルシオン軍や異形兵の侵攻を受けて疲弊していた。他のブロディア、ソルムもそれぞれ戦火に巻き込まれていく運命にある。
こうした各国の状況説明は今後物語を進める中で徐々に判明していく。この時点で筆者を含むプレイヤーは「エレオス大陸が再び戦乱に陥っている」ことを強く実感しただろう。
ルミエルという平和の象徴の死、そして邪竜勢力の暗躍が同時に描かれたことで、平和な1000年は完全に終わりを告げ、新たな戦争の時代が到来したのである。
また、竜の時水晶というアイテムが登場したのもポイント。フードの人物が落としていったこの秘宝は、本来神竜族が所有し時間を巻き戻す力を持つ貴重なもので、ゲーム的には以降プレイヤーが戦闘中にやり直しができるシステム(タイムクリスタル)として活用される。
物語的には、ルミエルが最後の力でそれを発動し(多分)敵を退けたものの、なぜ敵がそれを所持していたのか等の謎が残る。いずれにせよ、今後の戦いでリュールたちに有利な切り札となるだろう。
キャラクター描写:喪失と再生、決意
リュール

第3章はキャラクターの心情が激しく揺さぶられる章だったと言える。最大の変化はやはり主人公リュール。
母ルミエルを目の前で失ったことで、リュールは深い悲しみに沈んだ。もともと気弱な面もあった彼にとって、唯一の肉親の死は精神的に大きな痛手だったはず。
実際、ルミエルが息を引き取った直後のリュールは呆然自失となり、その場に崩れ落ちている。そんなリュールを立ち直らせたのは、ルミエルの遺した言葉と仲間たちの支えだった。
「もう逃げない」というリュールの決意表明は、キャラクター成長の大きな一歩である。第1章で「逃げましょう」と言っていたのと真逆であり、リュールがこの短期間で精神的に成熟したことを示している。
母の犠牲とその願い(指輪を集め邪竜を倒せ)を受け、リュールは自分がやるべきことを明確に理解した。悲嘆に暮れるだけでなく、それを力に変えて使命を果たそうとする強さが芽生えている。
これこそルミエルが命を懸けて伝えたかったことであり、リュールはその期待に応えるべく神竜として覚悟を決めたのである。
もっとも、リュールの内面にはまだ葛藤も残っている。冒頭の悪夢とマルスの歯切れの悪い回答から、自分の過去(1000年前の自分)は何か恐ろしい秘密があるのではと不安を抱き始める。
ルミエルの最期の言葉「黒歴史を思い出しても頑張って戦ってね」 という含蓄のある台詞もあり、リュールは「自分の黒歴史とは何なのか?」という疑問を持ったはず。つまり、表向きは邪竜討伐の使命に燃えるリュールだが、内心では自分の正体への不安という影を抱えている状態。
この二面性は物語後半で重要なテーマとなって行くに違いなし。第3章時点ではリュール本人も深くは追及せず、「今は母の願いを果たすのが先」と気丈に振る舞っているが、時折見せる表情には悲しみと不安が滲んでいた。
アルフレッド

アルフレッドは第3章から本格的に仲間キャラクターとして描かれ始めた。フィレネ王国の王子である彼は、明るく前向きな性格で、落ち込むリュールを勇気づける役割を果たして行く。特に最後の「剣にも盾にも花にもなる」というセリフは、アルフレッドの人柄を象徴している。
戦場では騎士として剣や盾となり命を張る覚悟を示しつつ、普段は一緒に旅を彩る花のような存在にもなりたい――という洒落た言い回しで、リュールを支えようと宣言したのである。
彼の真っ直ぐで純朴な優しさは、深い悲しみにあったリュールにとって大きな救いになったことだろう。実際、リュールもアルフレッドの言葉に微笑みを取り戻しており 、この旅を共に乗り越える仲間として信頼を寄せ始めている。


アルフレッドの家臣であるブシュロンとエーティエも、戦闘を通じて頼もしさをアピールした。
ブシュロンは物静かで心優しい巨漢だが、その斧の腕前は確かでリュールたちを助けた。エーティエは快活で鍛錬好きな弓兵で、涼しい顔でペガサスを射落とす腕前を見せている。
二人ともアルフレッドを主君として心から敬っており、彼が惚れ込んだリュールに対しても礼儀正しく接する。
例えばルミエル死亡後、リュールにすぐ話しかけずアルフレッドに任せ静かに見守る姿から、空気を読む気配りも感じられる。新たに加わったこれらフィレネ組との交流は、第4章以降で深まっていくことだろう。
ヴァンドレ、クラン、フラン

ヴァンドレ、クラン、フランの守り人トリオは、ルミエルの死という非常事態においてもリュールを献身的に支えた。
ヴァンドレは「なんということだ…ルミエル様…」と大きなショックを受けつつも、すぐさま気を取り直しリュールへの忠誠を誓い直す。彼にとっては先代に続き現当主も失った形だが、その悲しみは胸に秘め、残された神竜に尽くす決意をより強固にしたはず。
クランとフランは号泣しながらも、リュールに「私たちも一緒に行きます!神竜様を一人にはしません!」と訴えた。大好きな女王様を亡くし悲しみに暮れる中でも、彼らはそれ以上にリュールの身を案じている。
双子にとってリュールはまさに「この世界で一番大切な人」となり、守り人としてだけでなく個人的な情愛からも支えたい存在になったことだろう。こうした守り人達の揺るがぬ忠義と愛情があって初めて、リュールは心折れずに前へ進めたのだと言える。
ルミエル

ルミエルは第3章でその生涯を閉じた。彼女の死は物語に大きな喪失感を与えたが、その演出は感動的でもあった。
最後の最後まで母として子を庇い、指輪を託し、激励の言葉を残して逝く様は、まさに聖母のごとき崇高さ だった。彼女が息絶える間際、薄れゆく意識でリュールに語りかけた「たとえ記憶が戻り自分を思い出しても、どうか負けずに戦い抜いて」という言葉 は、重大な示唆を含んでいる。
ルミエルはリュールの出生の秘密を知っており、いずれリュールがそれを知って苦悩する時が来ることを案じていた。しかしそれでもリュールが自分の意思で正義のために戦い抜くことを信じ、背中を押したのである。
この母の深い愛情と信頼は、後の章でリュールが自分の出自と向き合う際の支えとなるだろう。ルミエルというキャラクターは短い登場期間ながら、主人公とプレイヤーの心に強い印象と教訓を残した。
悲劇的な最期だったが、その死は決して無駄ではなく、物語全体の原動力となっている。
プレイヤー視点の考察:母の死と物語の転換点

第3章は序盤のクライマックスにふさわしく、プレイヤーに強い衝撃と感情の揺さぶりを与えた。まず、ルミエルの死というイベントは多くのプレイヤー(筆者含め)が予感していながらも「やはり来てしまったか…」と胸を締め付けられるものだっただろう。
第2章までの暖かな母子の描写が丁寧だっただけに、その喪失感は計り知れない。近年のFEシリーズでも主人公の親が早々に退場する展開は定番化しているが、ルミエルの場合はとりわけ慈愛に満ちたキャラクターだったため、「失いたくない」という思いがプレイヤーにも芽生えていたはず。
それだけに、彼女が命を散らすシーンでは思わず涙した方も多かったのではないだろうか。(筆者は危なかったけどギリギリ泣いていない)
しかし物語上、この悲劇は必要不可欠な転換点だった。リュールにとってルミエルは絶対的な庇護者であり、その存在がある限りリュールはどこか子供のままでいられただろう。
だからこそ、その庇護を失ったことで否応なく自立せざるを得ない状況になったわけである。これは成長物語として王道であり、プレイヤーも「ここからが主人公の真の冒険の始まりだ」と認識したことだろう。
大切な人の死という重い試練を乗り越えたことで、リュールへの感情移入も一層深まる。「もう逃げない」と決意する彼/彼女を、プレイヤーも「立ち上がれ、頑張れ!」と応援したくなる心理状態になったはず。

ストーリー構成的にも、第3章で序盤のプロットが一段落し、ゲーム全体のメインクエスト(指輪集めの旅)が本格的に始動する。プレイヤーはここで、今後の目的と敵の姿がはっきり見えたことだろう。
邪竜ソンブル復活を目論むイルシオン軍という明確な“悪”、それに対抗して指輪を集め各国を巡る“善”の主人公勢という図式が固まった。以降のゲーム進行では、フィレネ→ブロディア→ソルム→イルシオンという順に各国を訪ね、指輪を巡る攻防を繰り広げることになるが、その土台がこの章まででしっかり築かれた形である。
また、新キャラの加入(アルフレッド一行)は物語を広げる効果があった。聖地リトスで閉じていた世界観が、一気にフィレネ王国という外の世界に繋がった瞬間でもある。
アルフレッドは他国の王子という立場で、リュールにとって最初の「外の友」。彼との出会いで主人公の交友関係が一気に広がり、ゲーム的にも使用キャラが増え戦略の幅が出た。
物語的には、アルフレッドの存在がリュールに勇気を与え、悲しみから立ち直る一助となった点が大きい。プレイヤーも、頼もしい仲間が増えたことで「これからはこのメンバーで旅を切り抜けていくのだな」と心強さを感じただろう。

フードの人物やリュールの悪夢など、謎も深まった。特に「赤い目のリュール」の映像は不気味で、「主人公には裏の顔があるのでは?」と考察を促す。
実際後に判明する伏線で間違いないが、第3章時点では答え合わせはできない。マルスがはぐらかしたことで「何かあるな」とプレイヤーに意識させ、物語への興味をさらに引っ張る巧妙な仕掛け。
ルミエルの死で悲しみつつも、「リュールの過去とは?フードの少女は誰?」という新たなミステリーが提示され、先を見たい気持ちが途切れない。
戦闘面では、第3章は初めて増援や本格的なマップ攻略の楽しさを味わえる章だった。アルフレッド隊の乱入という盛り上がる展開もあり、プレイヤーのテンションも上がったことだろう。物語上の悲劇とゲーム上の爽快感が入り混じり、非常に密度の濃い体験を提供してくれた。
総じて、第3章「襲撃者」は物語序盤のハイライトであり、主人公リュールの決意表明と旅立ちを描いた重要な章であった。
読者(プレイヤー)はここまでで、リュールというキャラクターの弱さと強さ、そして支える仲間たちとの絆をしっかりと受け止めたはず。平和だった聖地編は幕を閉じ、いよいよ舞台は大陸全土へ。
リュールは母の形見の指輪と仲間たちと共に、邪竜を封じる長い戦いの旅へ踏み出す。
以降の物語では、各国での新たな出会いや指輪争奪戦、そしてリュール自身の秘められた過去との対峙など、さらに深いドラマが展開していくことだろう。
その序章から第3章までの流れは、悲劇と希望が交錯する濃密なストーリーとしてプレイヤーの心に刻まれ、エンゲージの世界観へと引き込んで行った。

最後に一つ、ルミエル亡き後に残された者たちの心情に触れて締めくくろう。
ルミエルの死は確かに悲しい出来事だったが、彼女の犠牲によってリュールは強く成長し、新たな同胞との絆も生まれた。
悲劇から立ち上がり前に進む主人公の姿こそ、本作がプレイヤーに伝えたいテーマの一つだろう。それは
過去に囚われず、自分の意思で未来を切り開く強さ。
である。
かつての戦いに決着を付けるため、そして自らの運命と向き合うため、リュールは今まさに歩み出す。プレイヤーはその旅路を見守り、時に共に涙し、時に歓喜しながら、物語の結末へと突き進んでいくことになる。

