初代『ポケットモンスター 赤・緑』(1996年発売)をプレイしたことがある人なら、カントー地方の小さな町 シオンタウン に足を踏み入れた瞬間のゾワッとした感覚を覚えているかもしれない。

筆者も初めてこのBGMを聴いた時はマジで怖かった(震声)
幽霊がいるという噂や悲しいエピソード、独特の雰囲気に「子どもの頃は怖くて早く通り過ぎた」という人も多いはず。
本記事では、ライトユーザーやシリーズ未経験者でも楽しめるように、シオンタウンの舞台背景やストーリーを振り返りながら、ゲーム内外の話題や都市伝説まで解説して行く。
シオンタウンってどんな場所?
カントー地方の北東にある小さな町

シオンタウンは、初代『ポケットモンスター 赤・緑』(1996年)で初登場した架空の町で、カントー地方の北東に位置する小さな集落。
町の背後は山に囲まれた行き止まりのような地形になっており、他の町から切り離された孤立感が漂っている。
紫色の屋根と建物が特徴で、どこか哀愁を帯びた色調は「紫苑(しおん)」と呼ばれる花に由来する。この花は仏前に供える菊の一種で、「君を忘れない」「追慕」といった花言葉を持ち、町のテーマである追憶や慰霊を象徴している。
公式ガイドブックでも町の看板に「シオンは むらさき とうとい いろ」「むらさきいろの とうとさが にじむ ちいさな まち」など詩的な説明が記され、ラベンダーの神秘的なイメージが強調されている。
町の規模は小さく、ジムがない数少ない町の一つであり、道具屋とポケモンセンター、ポケモンハウス、名付け親の家など最低限の施設しかない。この地理的閉鎖性と静けさが、シオンタウンを特別な存在にしている。
ポケモンタワーがシンボル

シオンタウンが他の町と違う最大の特徴は、街の中心にそびえる「ポケモンタワー」。ポケモンタワーは死んだポケモンの霊を慰めるために建てられた巨大な墓塔で、無数の墓石が並ぶ慰霊施設として描かれている。
タワー内部にはゴーストタイプのポケモンだけでなく謎の「ゆうれい」が出現し、プレイヤーが初めてポケモンの死という概念に触れる場所でもある。タワーの内部は薄暗く、ゆうれいは「タチサレ……タチサレ……」と囁きながら徘徊している。
正体が分からないうちは攻撃も捕獲もできず、逃げるしかないという恐怖演出が緊張感を高める。
ロケット団のアジトで入手するシルフスコープを装備することで、ゆうれいの正体がゴースやゴーストとして判明し、ようやく戦うことができるようになる。
2階以降には霊媒師(きとうし)たちが祈祷を行っており、多くは怨霊に取り憑かれて「…ケケケ」「たましいよこせ」と不気味な声を上げながらゴースやゴーストを繰り出して来る。
3階には一時的に回復できるバリアが張られた安全地帯があり、そこにいる霊媒師だけは正気を保っているという細かな演出も隠されている。
こうした霊園らしい演出は、その後のシリーズ作品でも継承されることになる。

この「ゆうれい」ってマジで最強で、あのミュウツーですらビビッて手が出せない始末である…笑
静寂と不気味さを演出するBGM

シオンタウンに足を踏み入れると、他の町とはまったく違う、無機質で不気味なBGMが流れる。
音楽は軽快なチップチューンのイントロから始まり、その後不協和音が次々と鳴り響く作りになっており、音楽心理学者の池上真平氏は「不自然な音階の上がり方にアルペジオが組み合わさることで本能的な怖さを生み出している」と分析している。
さらに、曲の旋律には日本の童謡『とおりゃんせ』に似たフレーズが含まれていると指摘されており、どこか懐かしさを感じさせながらも背筋が凍るような雰囲気を醸し出す。初代ゲームでは限られた音源数を活かすため低音と高音のチャンネルが極端に分かれており、その結果「耳障りで怖い」と感じるプレイヤーが多かったという。
町中を歩くと、ポケモンセンター近くに立つ少女が「あなたの肩に白い手が……」と意味深な一言を呟くイベントがあり、プレイヤーをヒヤリとさせる。
この台詞は後にOVA『ポケットモンスター THE ORIGIN』でも再現され、シオンタウンの不気味さを象徴する名場面となった。こうした音楽と会話の演出が、シオンタウンを単なるゲームの舞台ではなく恐怖スポットへと昇華させ、多くの都市伝説の源流となったのである。
ポケモンタワーに秘められたストーリー
ゆうれいの正体とシルフスコープ

ポケモンタワーの中では通常の野生ポケモンではなく「ゆうれい」が出現するが、プレイヤーは技を出したり捕まえたりすることができない。ゆうれいは「タチサレ……タチサレ……」と囁くのみで、戦闘から逃げることを強いられる。
このゆうれいの正体を見破るためには、ロケット団のアジトで入手できるアイテム「シルフスコープ」が必要で、これを使うことでゴースやゴーストと戦えるようになる。
なお、戦闘時に「ポケモンの様子をみる」コマンドでステータスを確認すると、未鑑定のゆうれいの正体がガス状のゴース等であることだけは覗き見ることができるという裏技が知られているが、バトルはできずに逃げるしかないため恐怖がより強調される。
悲劇の母子:カラカラとガラガラ


タワーに現れるゆうれいの正体が判明すると、事件の背後にある悲劇が明らかになる。ロケット団がカラカラの骨を商品にするために、母親であるガラガラ(カラカラの進化形)を殺害し、その骨を奪ったのである。
孤児となったカラカラを残して成仏できなかったガラガラの霊が怨霊となり、ポケモンタワーに出現していた。
プレイヤーがシルフスコープで正体を見破り、ガラガラの霊と戦って倒すと、彼女の魂はようやく安らぎを得て消え去る。なお、ガラガラの霊は捕獲不可能であり、倒すことでしか先に進めない。
その後、主人公はタワーの最上階でロケット団に囚われていたフジ老人を救出し、彼から感謝の印としてポケモンのふえを受け取る。
この一連の流れは初期のシリーズでも屈指の感動シーンとして知られ、リメイク版『ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』ではカラカラと母親の霊が再会するカットシーンが新たに追加された。密猟や欲望によって家族が引き裂かれる悲劇は、ポケモン世界の暗い一面をプレイヤーに突き付ける。
フジ老人とポケモンハウス

タワーの最上階では、捨てられたポケモンを保護する施設「ポケモンハウス」を運営しているフジ老人がロケット団に囚われている。彼はポケモンを無差別に利用するロケット団のやり方に反対しており、孤児となったポケモンを保護・育成してきた。
主人公がロケット団を撃退するとフジ老人は感謝の印として「ポケモンのふえ」をくれる。これは道を塞いでいるカビゴンを起こすための重要アイテムで、物語を進める上で欠かせない。
なお、フジ老人の自宅兼ポケモンハウスは町の中央にあり、彼がタワーにいる間は居候の少年がカラカラの世話をしている。部屋には手紙や写真が飾られており、フジ老人が多くの孤児ポケモンを引き取ってきたことが読み取れる。
彼が戻るとカラカラは安心して甘え、プレイヤーは温かな再会シーンを目撃することになる。フジ老人はシオンタウンの慈悲深い象徴であり、プレイヤーにポケモンとの絆を思い出させてくれる存在である。
ライバルとの再会

ポケモンタワーでは、序盤から何度も対峙してきたライバル(グリーン)とも再会する。
ポケモンだいすきクラブのコラムでは「ライバルが大切にしていたポケモンに会うためにタワーに来ていたのかもしれない」と示唆されており、勝負を挑んでくるものの、彼もまた心の中では失ったポケモンを悼んでいたのかもしれない。
このイベントに関連して、ファンの間では「主人公がサントアンヌ号での戦闘でライバルのラッタを瀕死にさせ、その後ラッタが死んでしまったため、彼はラッタを埋葬しに来たのではないか」という通称“ラッタ死亡説”が語られている。
証拠として挙げられるのは、サントアンヌ号でのライバル戦では彼がラッタ(Raticate)を手持ちにしているのに、ポケモンタワーのライバル戦ではラッタがパーティから消えている点である。
さらに、タワーでのライバルの台詞に「おまえもポケモンの墓参りに来たのか?」「生き物の死を感じたことがあるか?」といったニュアンスが含まれることもこの説を後押ししている。
しかし、この説は公式に確認されたものではない。ライバルがラッタをボックスに預けたり別のトレーナーに譲った可能性もあり、ポケモンだいすきクラブや公式サイトでは単に「ライバルも誰か大切なポケモンを偲びに来たのではないか」と曖昧に表現されている。
あくまでファンが物語を膨らませるための都市伝説として楽しむのが良いだろう。プレイヤー同様、シオンタウンはライバルにとっても特別な場所なのだろう。

って俯瞰視点で書いたものの、あいつはシンプルに図鑑完成のためのカラカラ捜しに来ただけだよな(笑)
BGMにまつわる都市伝説
ラベンダータウン症候群
シオンタウンの不気味なBGMを巡っては、2010年代初頭に「ラベンダータウン症候群(Lavender Town Syndrome)」という都市伝説がインターネット上で広まった。
都市伝説によると、初期版『赤・緑』のBGMには有害な高周波が含まれており、それを聴いた子供たちが頭痛や不眠症、最悪の場合自殺を起こしたとされるもので、この噂は海外の掲示板などを通じて広がった。
さらに、「BGMをスペクトログラムに通すとゆうれいの顔やアンノーンが “今すぐ立ち去れ” というメッセージを発している画像が現れる」という説まで登場し、話はどんどん脚色されて行った。
当然ながらこれらは公式には確認されておらず、いわゆるクリーピーパスタ(ネット怪談)の一種である。
日本国内でも『ポケモンショック』の事件が都市伝説の拡散に影響を与えたと分析されている。しかし、シオンタウンのBGMが多くのプレイヤーに強烈な印象を残し、物語の雰囲気づくりに大きく貢献していることは間違いない。
BGMにまつわる怪談は他にもいくつか存在し、その中でも有名なのが「ホワイトハンド」や「ベリードアライブ」と呼ばれる話である。
海外掲示板を中心に広まったこのクリーピーパスタでは、ポケモンタワーの最深部に本来登場しないボスキャラクターが隠されており、レベル101の“ホワイトハンド”というポケモンと戦う展開や、四肢を食いちぎられるゲームオーバー画面が存在するとされている。
もちろんこれもファン創作の産物であり、実際のゲームにそのようなイベントは一切存在しない。こうした怪談が生まれるのも、シオンタウンの不気味な雰囲気があってこそと言えるだろう。
シオンタウンを歩く:施設とアイテム
ポケモンセンターとフレンドリィショップ
シオンタウンにはジムがない代わりに、ポケモンセンターやフレンドリィショップ、ポケモンハウスなどの施設がある。
初代では、フレンドリィショップで初めて「スーパーボール」を購入できるほか、回復アイテムや状態異常を治す道具などが販売されている。
第2世代以降もラインナップはほぼ同じだが、世代ごとに細かな違いがある。
せいめいはんだんしの家
町の南端には「せいめいはんだんし」の家がある。
ここでは手持ちポケモンのニックネームを変更してもらえます。お気に入りのポケモンに愛着ある名前を付けたい人には便利な施設で、当時はこの家が唯一の名前変更スポットだったため、プレイヤーはここで愛称を付け直す習慣があった。
また、町の中央にはフジ老人が運営するポケモンハウスがあり、行き場を失ったポケモンたちが暮らしている。
このポケモンハウスは、シオンタウンの恐ろしさの中に温かさを添える重要な施設である。
シオンタウンが残す印象と魅力

シオンタウンは、華やかな冒険の中に突如現れる静謐な場所として、プレイヤーにさまざまな感情を呼び起こす。
不気味なBGM、霊園のようなポケモンタワー、悲劇の母子にまつわるストーリー、町の人々の優しさなど、恐怖と哀しみと温かさが混ざり合った独特の空気感がある。
評論家からも、シオンタウンはポケモンシリーズの中でも特に印象に残る場所として評価され、その雰囲気や物語が都市伝説のきっかけになったと分析されている。
この町を訪れることで、プレイヤーは「ポケモンとは何か」を改めて考えさせられる。戦闘や育成だけでなく、命の尊さや別れの痛み、仲間を思う気持ちを体験できる。
だからこそ、シオンタウンはただのホラースポットではなく、シリーズ全体のテーマを象徴する重要な場所なのだろう。
シオンタウンの魅力は、その細かな演出の積み重ねにある。
周囲を山に囲まれた行き止まりの地形は外界から隔絶された世界を示し、紫苑の花に由来する名前は「忘れない」「追慕」といった花言葉と共にプレイヤーの心に残る。
フジ老人のポケモンハウスで孤児のカラカラが世話されている光景や、霊媒師が怨霊に取り憑かれて呪文を唱える場面、少女があなたの肩に白い手を見ると囁くイベントなど、一つ一つのエピソードがプレイヤーに忘れ難い印象を与える。
そして、ロケット団による密猟が生んだガラガラ母子の悲劇や、ラッタ死亡説のようなファン創作が生まれるほどの余白の多さも、この町が長年語り継がれる理由だろう。
シオンタウンは、恐怖と哀しみと優しさが混在するからこそ、プレイヤーに深い余韻を残すのである。
あとがき
今回は『ポケットモンスター 赤・緑』に登場するシオンタウンについて、ゲーム内のストーリーや町の雰囲気、都市伝説まで幅広く紹介しました。
初代から最新作までシリーズを通して登場し続けるこの町は、多くのプレイヤーに忘れがたい印象を残している。
これから『赤・緑』を遊ぶ方は、ぜひ自分の目と耳でシオンタウンの不思議な魅力を体験してみて欲しい。また、既にプレイ済みの方も、改めて訪れてみると新しい発見があるかもしれない。
出典リスト
- ポケモンだいすきクラブ「実録 ポケモンホラースポット」(シオンタウンに関する記事から、ポケモンタワーやライバルの行動についての記述)。
- ポケモンWiki「シオンタウン」(概要・施設など基本情報)。
- Wikipedia「シオンタウン」(町の初登場作品、不気味なBGM、カラカラとガラガラのストーリー、都市伝説など)。
- atwiki「シオンタウン」(地理・雰囲気、フジ老人の家、霊媒師のセリフ、ゆうれいの仕様、ガラガラの霊とシルフスコープ、ライバルのラッタ説、紫苑の花言葉、他作品の霊園に関する記述など)。
- Appget「ポケットモンスタークイズ大全 シオンタウン編」(町名の由来である紫苑の花について)。
- ScreenRant「Pokémon: Did You Accidentally Kill Your Rival’s Raticate?」(ライバルのラッタ死亡説とその反論)。
- BuzzFeed(『現代世界怪奇大全』紹介記事)(ラベンダータウン症候群、ベリードアライブ・ホワイトハンドなどの都市伝説)。
- 他、ゲーム内資料やアニメ・漫画作品。
