⚠️この記事は、筆者の熱が入りすぎて、トータル18,300字をを超えております。覚悟してお読みください(笑)
PS2版『グランド・セフト・オート:バイスシティ』総合解説

- 発売日:2002年10月27日(北米)
- ジャンル:クライムアクション/オープンワールド/アクションアドベンチャーゲーム
- プラットフォーム:PlayStation 2/PlayStation 3/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox/Nintendo Switch
- 開発:ロックスターノース
- 発売:ロックスターゲームス/カプコン(日本)
本作は2002年に北米で発売され、当時プレイステーション2向けとして驚異的なセールスを記録した。日本ではカプコンからローカライズされ、2004年5月に発売されている。以降、XboxやPC、スマートフォン向けにも移植され、シリーズ史上屈指の人気作として広く知られている。
1980年代のアメリカ・マイアミをモデルにした架空都市「バイスシティ」を舞台に、プレイヤーは犯罪者として自由な行動を楽しめるオープンワールド・クライムアクションゲーム。
本記事では、ストーリー概要やゲームシステム、登場キャラクター、音楽や時代背景、裏技、開発秘話、社会的影響、そして現代への影響まで、PS2版『GTA:バイスシティ』の魅力を総合的に解説して行く。
第1章:ストーリー概要

『グランド・セフト・オート:バイスシティ』の物語は、組織の裏切りによって15年もの刑務所生活を終えたトミー・ベルセッティという男のサクセスストーリー。
1986年、トミーはリバティーシティのマフィア「フォレッリ・ファミリー」のボスであるソニー・フォレッリの指示を受け、南国のリゾート都市バイスシティへ麻薬取引に赴く。しかし取引現場が何者かに襲撃され、麻薬も金も奪われてしまうという惨事に見舞われる。
一文無しになったトミーは、命からがら逃げ延びた弁護士のケン・ローゼンバーグと協力し、失われた薬物と資金を取り戻すために奔走することになる。手がかりを追う中で、彼は街のさまざまな人物と出会い、その裏社会に深く関わって行く。
やがてトミーは、バイスシティを牛耳る麻薬王リカルド・ディアスが黒幕であることを突き止め、同じく復讐に燃える新参者のランス・ヴァンスと手を組んでディアスの打倒に乗り出す。ディアスを倒した後、トミーは彼の資産やシマを引き継ぐ形で徐々に勢力を拡大し、裏社会で頭角を現して行く。
しかし成功を収める一方、相棒ランスとの仲には次第に溝が生まれ始める。自らの功績を認めてもらえないことに不満を募らせたランスは、トミーを出し抜こうと密かに動き出す。
豆知識:本作の時代設定は1986年であり、これは『GTAIII』(2001年が舞台)より過去の物語にあたる。直接の続編ではないが、前日譚的な位置付けでシリーズの世界観に厚みを持たせている。なお、主人公トミーが15年前に刑務所送りにされた背景「ハーウッド事件」は、シリーズ前作で語られていたリバティーシティの伝説的事件とされている。

ハリウッドのようなストーリーや演出が当時の筆者にとって衝撃だった。ただ、まだまだガキだったので、リアルなストーリーが故に難しさも感じていた。
第2章:ゲームシステムの仕組みと特徴
オープンワールドの自由度とミッション構造

オープンワールド
『バイスシティ』最大の魅力は、何と言っても広大で自由に動き回れるオープンワールドにある。舞台となるバイスシティは、現実のフロリダ州マイアミをモデルにした架空のリゾート都市で、ビーチリゾートから高級住宅街、ダウンタウンの高層ビル街、貧民街、そして湿地帯まで、多彩なロケーションが一つのマップに凝縮されている。
プレイヤーはこの街中をシームレスに移動でき、見える建物や道路のほとんどを実際に訪れることができる。車やバイク、ボートやヘリコプターなどあらゆる乗り物を奪って乗り回し、海沿いの大通りから裏路地の路地裏まで、好きな場所へ行くことが可能。
昼夜の概念や天候の変化も導入され、時間帯によって街の雰囲気が変わるため、プレイヤーは朝焼けのビーチやネオン輝く夜の市街地など、80年代の南国都市の空気感を自由に味わうことができる。
メインストーリー
メインストーリーはミッション形式で進行する。マップ上に点在する登場人物たちのもとを訪れることで新たな依頼(ミッション)が発生し、それを遂行することで物語が展開して行く流れ。ミッションの内容は、敵対組織との銃撃戦やカーチェイス、大規模な強盗作戦、暗殺任務、果てはラジオ局への楽曲運搬やバンドの護衛まで多岐に渡る。
プレイヤーはどのミッションから先に挑戦するかある程度選択でき、複数の依頼主から同時並行で仕事を請け負うことも可能。メインの物語を進めずに自由に街で過ごすこともできるため、ストーリー攻略と箱庭的な自由遊びのバランスを自分のペースで楽しめる構造になっている。
最終的には全ての主要ミッションをクリアすることで、前述のクライマックス(屋敷襲撃戦)に到達するが、それ以外にも寄り道要素が非常に充実している。

好きなタイミングでメインストーリーを進められるは本当に便利だった。ただ…寄り道のしすぎで1ヵ月くらいストーリーが進まないってことも(笑)いざ再開してみると「あれ…?どんな物語だったっけ?」ってなるパターン。
充実したサブミッションと多彩な乗り物・武器

サブミッション
オープンワールドゲームとして本作は、メインの犯罪ミッション以外にも多彩なサブミッションやチャレンジが用意されている。
例えば、救急車を運転して負傷者を病院に運ぶ「ライフガード(救命救急)」ミッション、消防車で火災現場に急行して火を消し止める「ファイアファイター(消防)」ミッション、タクシー運転手となって制限時間内にお客を届ける「タクシードライバー」ミッションなど、街で特定の車両に乗り込むことで始まる職業ミッションがある。
これらは前作『GTAIII』にも存在した要素だが、今作では新たにピザ配達ミッションが追加されるなど更なる遊びの幅が広がった。
また、警察車両に乗れば犯罪者を取り締まる「自警団(ヴィジランテ)」ミッションが開始でき、一定人数の犯罪者を逮捕・殺害するまで終わらない戦いに挑める。これらサブミッションをこなすことで、最大体力や走力の上昇などゲーム進行に役立つご褒美を得られる要素もあり、単なるお遊び以上の意義が持たされている。

個人的には「ピザ配達」と「タクシーミッション」が楽しすぎて一生遊んでた(笑)タクシーに乗客を乗せたまま目的地を猛スピードで通過すると、客が拉致だと勘違いするのか、大騒ぎする光景がマジでオモロイ。
乗り物
乗り物の種類も前作以上に豊富。自動車はセダンやスポーツカー、ジープにリムジン、バン、トラックなど多数登場し、バイクもシリーズで初めて操作可能になった。ハーレー風の大型バイクから高性能なレーサーバイクまで揃い、車では入れない細い路地の移動やスタントジャンプに活躍する。
水上ではモーターボートやヨット、さらには沖合で水上飛行機に乗るミッションもあり、海と陸をまたいだ移動も爽快。
空を見上げればヘリコプターが旋回しており、本作ではヘリコプターを自由に操縦することも可能。小型のニュースヘリから軍用の攻撃ヘリまで用意されており、上空から街を見下ろす解放感と機動力は格別。
このように陸海空の乗り物が解禁されたことで、オープンワールドの自由度は飛躍的に向上した。乗り物ごとに挙動や速度が異なるため、乗り換える度に新鮮な操作感を味わえるのも魅力。

当時、筆者は「ターミネーター2」にハマりまくってて、その影響でハーレーに乗り、ショットガンを構えて街中を乗り回すという遊びを延々と繰り返しておりました(笑)
武器
武器も銃火器から近接武器までバリエーション豊か。
ハンドガンやサブマシンガン、ショットガン、アサルトライフルといった銃器類に加え、チェーンソーや日本刀のようなユニークな近接武器、投擲物として手榴弾やモロトフ火炎瓶まで登場する。
新武器としては高威力のコルトパイソン(大型リボルバー)やミニガン(ガトリング砲)も加わり、火力のインフレも図られた。
一方、武器の持てる数にはカテゴリごとの制限があり(拳銃枠・ショットガン枠・ライフル枠などで各1種のみ携行)、何でもかんでも持ち歩けるわけではないため、プレイヤーは用途に応じた武器選択が求められる。
戦闘システムでは、一人称視点での狙い撃ちや、走行中の車から窓越しに銃を撃つ「ドライブバイ射撃」も引き続き可能で、シリーズ伝統のカオスなアクションが健在。
さらに今作からはガラス越しに車内の敵を撃てるようになり、車に乗り込まれ逃げられる前に始末するといった戦法も取れるようになった。車両面では、銃撃やスパイクベルト(警察の設置する撒菱)によってタイヤがパンクする要素が新たに導入されており、タイヤが潰れるとハンドリングが悪化してスリリングなカーチェイスが展開される。
ただしタイヤが完全に外れることはなくリムで走り続けるため、最後まで走行不能にならないのはゲーム的なバランス調整と言える。

個人的に好きだったのが「火炎瓶」。ピザ配達バイクに跨りながら、通行車に向かって投げるという狂気を遊びをしていた。(凶器だけに…)
進化した操作性と利便性
操作性
操作体系は基本的に前作GTAIIIの流れを汲む三人称視点アクションだが、随所に改良が加えられている。
キャラクター操作では新たに「しゃがみ」動作が可能となり、遮蔽物に隠れて敵をやり過ごしたり、身を低くして銃撃戦を有利に進めたりといった戦術が取れるようになった。
また、一部の建物は出入りが可能で、ミッション中やフリープレイ中に建物内部に入って戦闘や探索を行う場面も設けられている。
例えばナイトクラブ「マリブクラブ」やショッピングモール、ホテルロビーなど、多くのインテリアが作り込まれており、屋内外をシームレスに行き来できることで世界の奥行きを感じさせる。
UI(ユーザーインターフェース)
UI面でも利便性の向上が図られている。
マップには各ミッション発生場所やセーブ可能な隠れ家、武器ショップなどのアイコンが表示され、目的地が分かりやすくなった。画面右上のレーダーで周辺地形を把握しながら動けるため、迷子になりにくく遊びやすい設計になっている。
また衣装チェンジの概念が導入されたのも今作の特徴。街の洋服店や特定の場所で用意された服に着替えると主人公の見た目が変化し、警察の手配を一度だけ帳消しにできる(服装を変えることで追跡を巻く)効果がある。あるミッションではタキシードに着替えてパーティに潜入するなど、ストーリー演出上も衣装システムが活かされている。
セーブ(隠れ家)
セーブ方法は、各地に点在する隠れ家(セーフハウス)で行う。
隠れ家は無料でもらえる初期のアパートから始まり、ゲームを進めてお金を稼ぐことで新たな物件を購入できるようになる。
高級ホテルの一室や島郊外の洋館、自家用桟橋付きの別荘など、多彩な不動産が購入可能で、拠点として利用できるのみならず定期的な収入が入るビジネスも存在する。
例えばナイトクラブや印刷工場、タクシー会社などを買収すれば、その施設を舞台にしたミッションが発生し、完遂すると以後ゲーム内で利益を生み出す資産となる。
こうした「経営要素」により資金稼ぎのモチベーションが生まれ、中盤以降のプレイヤーは街の実力者として様々なビジネスを支配下に置く感覚を味わえるだろう。
第3章:主要登場キャラクターと背景

物語の展開を彩る登場人物は個性的なキャラクターばかり。ここでは主要なキャラクター5人をピックアップし、その背景や役割を紹介して行く。
トミー・ベルセッティ(Tommy Vercetti)
本作の主人公。35歳のイタリア系アメリカ人で、リバティーシティの「フォレッリ・ファミリー」に属する元マフィア構成員。
15年前に上司ソニーの裏切りにより殺人容疑で逮捕・服役し、「ハーウッドの肉屋」の異名で恐れられた過去を持つ。
出所後にソニーの指示でバイスシティに赴き、取引失敗から全てを失うも、持ち前の狡猾さと大胆さで裏社会のトップへと成り上がって行く。ゲーム中では終始プレイヤーキャラクターとして行動し、前作主人公と違って積極的に喋るのが特徴。
レイ・リオッタが声を担当しており、その渋い口調と短気で皮肉屋な性格で、80年代犯罪映画のヒーローさながらの存在感を放っている。
ランス・ヴァンス(Lance Vance)
トミーが旅の途中で出会うことになる黒人男性。流れ者の陽気な性格で派手好きな一方、目的のためにはリスクも辞さない野心家。
実は冒頭の取引で殺された麻薬ブローカーのヴィクター・ヴァンスの弟であり、兄の仇を討つため偽名を使いながらディアスに接近していた。トミーとは利害が一致し相棒関係を築き、ともにディアスの打倒を成し遂げる。
その後は「ヴァンス&ベルセッティ」コンビとして組織の中枢を担うが、トミーに認められたい劣等感から次第に不満を募らせ、物語終盤でソニー側に寝返ってしまう。トミー邸襲撃の際に自ら命を狙われ、最後はトミーの手で無念の死を遂げる。
ちなみに彼の声を演じたフィリップ・マイケル・トーマスは、80年代の刑事ドラマ『マイアミ・バイス』で主人公コンビの片割れ(リカルド・タブス刑事)を務めた俳優であり、作品の舞台設定へのオマージュとなっている。
ケン・ローゼンバーグ(Ken Rosenberg)
トミーの世話役を務めることになる弁護士。33歳。フォレッリ・ファミリーの顧問弁護士で、神経質かつ小心者、さらにコカイン中毒という問題だらけの人物。
かつて司法試験で不正を働いた疑惑や、判事への脅迫など裏工作にも手を染めており、業界での評判は芳しくない。
物語冒頭ではトミーとともに取引現場に居合わせ、事件後は彼と生き延びた共通の利害から行動を共にする。気弱ながらもトミーを見捨てず助言や仲介役に奔走し、次第に奇妙な友情で結ばれて行く。
彼のモデルは映画『スカーフェイス』や『カリートの道』に登場する弁護士キャラクターだとされ、ドラマ『プリズン・ブレイク』でFBI捜査官を演じたウィリアム・フィクトナーが声を担当している。
ソニー・フォレッリ(Sonny Forelli)
リバティーシティに君臨するマフィア「フォレッリ・ファミリー」のボスで、本作の黒幕的存在。トミーの古巣の親玉であり、野心的で冷酷非情なギャングスター。
若くして組織のトップに上り詰めた切れ者で、保身のためには部下も平気で売り飛ばす狡猾さを持つ。15年前にトミーを刑務所送りにした張本人であり、その理由も「トミーが存在することで自分のビジネスに悪影響が出る」と判断したためという徹底した合理主義者。
バイスシティでトミーが成功を収めると、彼の成果を横取りすべく美談を装って大勢の部下を率いて乗り込んで来るが、結局は返り討ちに遭い野望は潰える。
名前の「ソニー(Sonny)」は、ドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の主人公サニー・クロケット刑事に由来しており、本作の舞台設定への遊び心が感じられる。
リカルド・ディアス(Ricardo Diaz)
バイスシティの裏社会を牛耳る大物麻薬ディーラー。コロンビア移民で、小柄な体格ながら短気で凶暴な性格ゆえ周囲から恐れられている。
絢爛な豪邸に住み、高価なスポーツカーや武器を収集する成金趣味の持ち主で、劇中では常に腰に拳銃を携帯し怒りに任せて乱射するシーンも見られる。
実はゲーム冒頭の取引を襲撃するよう手下に命じた黒幕であり、薬と金を強奪した張本人だった。トミーとランスはその事実を掴んだ後も表向きはディアスに取り入り、彼のミッションをこなしつつ信頼を得ていく。
しかし機は熟し、両名はディアス邸に攻め込んで彼を暗殺。ディアスは頭を撃ち抜かれ死亡し、その権力と資産はトミーによって奪われる。
彼のモデルは映画『スカーフェイス』のトニー・モンタナに敵対するボリビア人麻薬王に近いと言われ、声優は名脇役俳優のルイス・ガスマンが担当している。
以上の他にも、バイスシティの物語には魅力的な脇役が多数登場する。
軍の元大佐で情報通のフアン・ガルシア・コルテス大佐、イギリス人音楽プロデューサーのケント・ポール、キューバ人ギャングのボスウンベルト・ロビーナ、武器商人のフィル・キャシディ、売れないロックバンド・ラブフィストの面々など、多彩な人種・職業のキャラクターが絡み合い、物語と世界観に深みを与えている。
声優陣にはバート・レイノルズやダニー・トレホ、ゲイリー・ビジーなど映画俳優も起用されており、豪華な配役も話題となった。

基本的にGTAシリーズの登場人物には、日本ゲームのようないわゆる「美形キャラ」が登場しない。しかし、それぞれのキャラが濃すぎて印象に残りまくる。
第4章:音楽とラジオが彩る1980年代のバイスシティ

1980年代のマイアミの雰囲気を再現するうえで、本作において特筆すべき要素が音楽である。
ゲーム内の車両にはラジオが搭載されており、乗り込むと自動的にラジオ局が流れ始める。プレイヤーは好きな局にチューニングを合わせることで、運転中にさまざまな音楽やトーク番組を聴くことができる。
収録された楽曲はなんと約9時間分にも及び、各ラジオ局ごとの番組が1時間近い長尺で編成されている。これは当時としても異例のボリュームで、広大なゲームプレイ時間に負けない充実した音楽体験を提供する狙いがあった。
曲目は1980年代に大ヒットした実在の楽曲ばかりです。ポップス、ロック、ヘヴィメタル、ニューウェーブ、ラテン、ヒップホップ、R&Bなど、多彩なジャンルの名曲が惜しげもなく使用されている。
例えば、マイケル・ジャクソン「Billie Jean(ビリー・ジーン)」や、ザ・バグルス「Video Killed the Radio Star」といった誰もが耳にしたことのある世界的ヒット曲が流れたときの衝撃は大きく、発売当時多くのプレイヤーが「ゲームのためにこれだけ豪華な曲を使うのか」と驚嘆した。
他にもアイアン・メイデン「2 Minutes to Midnight」やフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド「Two Tribes」など、東西冷戦下の時代背景をほのめかす楽曲も含まれており、選曲にも時代性へのこだわりが感じられる。

ちなみにこのゲームがきっかけでマイケル・ジャクソンにハマるという(笑)どうしてもCDが借りたかったんだけど、当時のお小遣いでは厳しかった。しかし近所の図書館で「スリラー」のアルバムが貸し出しされてて興奮したのを覚えてる。(市営図書館なのでもちろん無料)
ラジオ局は全部で7つの音楽チャンネルと2つのトークチャンネルがある。主な音楽局を挙げると、最新ヒット曲を揃えたポップス局「Flash FM」、派手なロックとヘビメタ専門の「V-Rock」、ブリティッシュなニューウェーブが流れる「Wave 103」、ファンクやソウルを集めた「Fever 105」、情熱的なラテン音楽の「Radio Espantoso」、初期ヒップホップとエレクトロの「Wildstyle」など、多岐にわたる。
いずれもDJのしゃべりや架空のCM、ニュースまで挿入され、当時のラジオ放送そのものを忠実に模した作り込みがされている。
トーク局では架空のトークショー番組が展開され、政治や生活について風刺の効いたコメディトークが繰り広げられる。これら音声コンテンツの総尺も相当なもので、ゲーム内ラジオをずっと聴いるだけでも楽しめると言われるほど充実している。

また「Soundtrack albums available on Epic Records(Epicレコードよりサウンドトラック発売中)」の表記が示す通り、ゲーム音源は公式サントラCDとしてもリリースされた。
ラジオから流れる音楽とバイスシティの風景の組み合わせは、没入感を飛躍的に高める効果を生み出した。
例えば、お気に入りの曲をBGMにバイクで海岸通りを疾走したり、夕陽を浴びながらオープンカーで高級住宅街を流したりする瞬間は格別。プレイヤーからは「ただドライブしてラジオを聴くだけで楽しい」「80年代の空気に浸って観光している気分になる」といった声も多く、本作はゲームの中で時代や文化に浸る魅力を提示した作品とも評される。
犯罪アクションの刺激的な側面だけでなく、レトロな音楽と景色に身を委ねて“雰囲気を味わう”楽しさを教えてくれた点で、オープンワールドゲームの新たな可能性を示したと言える。
時代背景について触れると、本作は1980年代のマイアミに強くインスパイアされている。80年代といえば、アメリカでは麻薬取締戦争やコカイン拡大期にあたり、特にフロリダ州マイアミは麻薬カルテルや犯罪組織の暗躍する危険な街として知られていた。
その状況は当時のポップカルチャーにも反映され、TVドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス(Miami Vice)』は華やかなマイアミの裏に潜む犯罪や潜入捜査官たちを描いて人気を博した。また、アル・パチーノ主演の映画『スカーフェイス』では、キューバからアメリカに渡ったギャングがマイアミの麻薬王に上り詰める様子が描かれ、暴力的かつ派手な作風でカルト的支持を得た。
『バイスシティ』はまさにこれら「マイアミ・バイス」や「スカーフェイス」へのオマージュであり、ゲーム中にも随所にその影響が見て取れる。例えば、ディアスの邸宅は『スカーフェイス』で主人公トニー・モンタナが住んだ大豪邸に酷似しており、内装やプールの配置まで似せてある。
終盤ミッションの館での銃撃戦も『スカーフェイス』のラストシーンを彷彿とさせるが、映画とは異なり主人公が生き残る展開に変えることで、リスペクトを払いつつ独自の結末を描いている。また、ランスの声優に先述のフィリップ・マイケル・トーマスを起用したのも『マイアミ・バイス』への遊び心だろう。
このように、1980年代当時の空気感やフィクション作品への愛が細部にまで詰め込まれており、本作自体が80年代という時代を映したタイムカプセルのような存在感を放っている。
第5章:裏技・隠し要素と自由な遊び方

本作はメインストーリーやミッションを進める以外にも、プレイヤーの発想次第で無限の遊び方ができる点が大きな魅力。ここでは裏技(チートコード)や隠し要素、ユニークな遊び方の工夫について解説する。
チートコードでできること
シリーズおなじみの「チートコード」は本作にも健在。ゲーム中に特定のボタン入力を行うことで、通常プレイでは得られない効果を発生させることができる。
その種類は多岐にわたり、以下は特に代表的なもの。
- プレイヤーの強化系:体力全回復、武器一式の入手、防弾チョッキ取得、手配度(警察の追跡度)をゼロにする/最大にする、など。
- 車両系:任意の乗り物をスポーンする、車が爆発しない、車が水上を走行できる、車の色をランダムに変える、など。
- 環境変更系:歩行者が暴徒化して暴れ出す、市民全員が武装する、重力を弱くしてジャンプ力を上げる、時間の流れを速く/遅くする、天気を晴天に固定する、など。
- キャラクター外見系:プレイヤーの見た目を特定NPCのモデルに変更する(警官やギャング、労働者などに変身)、など。
例えば「車が水上走行できる」チートを使えば、普通は沈んでしまう自動車で海の上をドライブでき、陸続きでは行けない沖合の場所にも行けてしまう。
重力軽減チートを併用すれば、車でジャンプ台から飛んだ際にまるで月面のようにふわりと遠くまで飛べる、といったコミカルな遊びも可能。
他にも「市民暴動」チートを使うと街中がパニック狀態になり、通行人同士が毆り合いを始めたり車が爆発的に増えたりとカオスな光景が繰り広げられる。これら裏技はゲームの世界を一変させる強烈な効果を持つため、多用すると本来のミッション進行が困難になる場合もありますが、その分「何でもあり」のバカバカしい楽しさを提供してくれる。
ただし注意点として、PS2版ではチート使用後にセーブを行おうとすると「チートコードを使用するとセーブデータに影響を及ぼす可能性があります」という警告メッセージが表示される。特に「暴徒化」や「市民武装」といったチートは一度セーブすると解除できなくなるバグがあり、通常プレイに戻れなくなる恐れがあるためである。
そのため、当時は「チートを使うならセーブせず遊ぶべし」といった注意喚起がなされていた。この仕様もあって、プレイヤー間では「チート使用時は遊び用データと割り切る」ことが推奨されていた。
ちなみに、PS4・PS5版でチートコードを使用するとトロフィーが獲得できなくなる。

この公式チートがあまりにも面白すぎた。子どもって「銃弾MAX」とか「スタータスMAX」とかって文字に弱いじゃん?(笑)俺もその類いだった。
隠しパッケージ収集とその他チャレンジ
本作には「隠しパッケージ」と呼ばれるコレクタブル要素が存在する。南国の木彫り土産のようなトーテムポール型のオブジェが100個、街のあちこちに隠されており、これを拾う(壊す)ことで収集数がカウントされる。
一定数集めるごとに、プレイヤーへのご褒美として隠れ家に強力な武器やアイテムが出現するようになります。例えば10個で手榴弾、20個で防弾チョッキ、50個でミニガンがセーフハウスに配置される、といった具合。
そして100個すべて集めると巨額のボーナス報酬と隠し要素が解禁される。この隠しパッケージ探しは、ゲーム内マップの隅々まで探索する動機付けとして機能しており、遊び尽くしたいプレイヤー向けのやり込み要素となっている。
他にも、ユニークスタントジャンプのポイントが街中に20箇所以上用意されている。これはスロープ状のジャンプ台から車やバイクで飛び、一定の距離と高さをクリアすると「ユニークスタント成功!」と表示されボーナス資金が貰えるチャレンジである。
高層ビル間を飛び越えたり、川をまたぐようにジャンプしたりと、まるでアクション映画の一場面のような離れ業に挑戦できる。また「ランページ(大暴れ)」と呼ばれるミニチャレンジも各所にあり、特定の武器が渡され一定時間内に目標数のギャングを倒せ、という過激なミッションを楽しむこともできる。これらはストーリーには無関係だが、純粋な腕試しとして熱中できるおまけ要素である。
自由度の高さゆえ、プレイヤー自身が目標を設定して遊ぶことも盛んに行われた。例えば「警察から逃げ続けて何分生き延びられるか」「一般車を壊さずに高速ドライブして街を一周する」「バイクでどこまで屋根の上に乗れるか挑戦する」など、その内容は人それぞれ。
ゲームの物理挙動を利用したスタントや、NPCの反応を観察する実験的な遊びまで、砂場のような世界で創意工夫を凝らす楽しみがあった。発売から年月を経ても、動画サイトなどでは「GTAバイスシティで○○やってみた」といったファン動画が多数見られ、本作のサンドボックス的な遊び方がいかに愛されているかが伺える。

PS5リマスター版を積んであるから、次やるときはコレクションをすべて集めたいね!
第6章:開発の舞台裏と秘話

短期間で生まれた名作の背景
本作の開発は、多くの興味深い逸話に満ちている。
本作は前作『GTAIII』の大ヒットを受けて企画されたが、その制作スケジュールは非常にタイトだったという。
2002年初頭から開発がスタートし、同年10月にはもう完成発表が行われたというのだ。つまり着手から完成まで約9ヶ月という短期間で作り上げられており、当時としても異例のスピード開発だった。
元々はPC版『GTAIII』の制作時に「入れられなかった新武器や乗り物を追加したミッションパックを作れないか」という発想が出発点だったそうだが、作っているうちにミッションパックと呼ぶには規模が大きくなりすぎたため、急遽フルプライスの単独ゲームとして発売することになった経緯があったという。
当初は「GTAIIIの番外編」程度の位置付けだった企画が、蓋を開けてみればまったく新しい舞台と物語を持つ一大作品となったのだ。
開発元のRockstar North(当時DMA Design)は、ニューヨーク風のリバティーシティに続く新たな舞台として「マイアミ風のバイスシティ」を選択。その理由について、プロデューサーのレスリー・ベンジーズ氏は「前作の街と似て非なる点を持つ場所にしたかった」と語っている。
加えて、Rockstar Games社の社長サム・ハウザー氏が1984年放送のドラマ『Miami Vice』に強い愛着を持っていたことも大きな動機だったそうだ。“バイスシティ”という都市名自体が「マイアミ・バイス」へのオマージュであり、ゲーム内にもそのエッセンスがふんだんに取り入れられた。
短期間で効率的に開発を進めるための工夫も語られている。開発チームは『GTAIII』製作時に蓄積したノウハウを活かしつつ、本作でもゲームエンジンに引き続きCriterion社のRenderWareを採用した。
レンダリング処理やストリーミング技術を改善したことで、前作の約2倍のポリゴン数とテクスチャ表示を実現し、マップサイズも2倍に拡大できたという。つまりエンジンの基盤はそのままに表現力を倍増させた形で、短い開発期間でも大幅なボリュームアップを可能にした。
また、製作途中でスタッフ全員をマイアミに派遣し現地調査を行ったというユニークなエピソードもある。これは過酷な開発続きで疲弊したチームのリフレッシュも兼ねていたようだが、多くのメンバーが観光や休養を楽しむ中、アートチームはビデオカメラやカメラ片手にマイアミ中の風景を撮影して回った模様。
その撮影枚数は1万枚近くにも及び、明るい観光地の顔から危険な裏通りの様子まで大量の資料を持ち帰ったという。さらにニューヨークの本社スタッフは映画業界のプロを雇ってロケハン(ロケーション・ハンティング)を実施し、足りない部分を補完したとのことで、こうした綿密なリサーチがバイスシティの臨場感あふれる街並みに反映されている。
開発者の意図と演出上の工夫
前作からのストーリーテリングの変化も開発上の大きなテーマだった。『GTAIII』では主人公が一言も喋らない無口なキャラクターだったが、本作トミー・ベルセッティは積極的にセリフを発し、明確な意思を持って物語を動かす存在として描かれた。
この変更について、Rockstarのリードライターであるダン・ハウザー氏は「主人公が喋ることでカットシーンの会話に深みが増し、プレイヤーがその世界の一部であることをより感じられるようになった」と語っている。
確かに、本作のカットシーンはまるでハリウッド映画のワンシーンのように洗練されており、主人公と他キャラクターの掛け合いが物語に厚みを与えている。プレイヤーはトミーの視点と心情に寄り添いやすくなり、ドラマを見るようにストーリーを楽しめるとの評価も受けた。
このシネマティックな演出を支えたのが、豪華な声優キャスティングである。本作では主人公トミー役に映画『グッドフェローズ』などで知られるレイ・リオッタを起用したのを筆頭に、脇を固めるキャラクターにもビッグネームが揃った。
前述のようにランス役に『マイアミ・バイス』のフィリップ・マイケル・トーマス、ケン役にウィリアム・フィクトナー、ディアス役にルイス・ガスマン、ロックバンドのマネージャー役に元スパイス・ガールズのメンバーだったデビー・ハリーなど、実力派俳優や有名人が多数参加している。
彼らのプロフェッショナルな演技がゲーム内キャラクターに命を吹き込み、カットシーンのクオリティを映画さながらの域にまで高めた。ゲームに著名俳優を起用すること自体、当時はまだ珍しい試みであり、話題性の面でも大きな効果があった。
ローカライズ(翻訳)については、日本版発売元のカプコンが担当。当時、GTAシリーズは過激な内容から日本発売が遅れがちだったが、本作も北米発売(2002年10月)から約1年半経った2004年5月にようやく日本語版がリリースされている。
この間、表現の一部修正も施された。例えば日本語版では、ケン・ローゼンバーグが薬物を服用するシーンがすべて削除されている。他にも過度な残虐表現(身体欠損など)がマイルドに変更され、CEROレーティング「Z」(18歳以上対象)ではあるものの、日本の審査基準に合わせた調整がなされている。
それでも発売当時は「暴力ゲーム」として一部メディアに取り上げられたりもしたが、カプコンの積極的な販売展開もあり結果的に国内でも約39万本を売り上げるヒットとなった(※カプコン決算資料による)。
開発後日談として、ハイチ人蔑視発言の削除が挙げられる。北米版リリース後、本作中に「ハイチ人ギャングを殺せ(Kill the Haitians)」と聞こえるセリフがあることにハイチ系移民コミュニティが反発し、Rockstar Gamesおよび親会社のTake-Two Interactiveに対して訴訟を起こす事態となった。
これを受け、Rockstarは「問題となった台詞を将来の出荷分から削除する」ことを表明し謝罪している。裁判自体は最終的に和解/終息したが、以降に出た本作のバージョン(日本語版や廉価版、Steam配信版など)では該当の台詞が修正・削除されている。
この件はゲーム内容が社会的マイノリティへの配慮を欠いていた例として議論を呼び、以後Rockstarはシリーズ続編で人種・民族問題を扱う際に慎重な姿勢を見せるようになったと言われる。
第7章:発売当時の論争と社会的影響

暴力・犯罪表現を巡る批判
本作が発売されると、その過激な内容は世界中で賛否を巻き起こった。
ゲーム内では一般市民を殴ったり車で轢いたりできる上、警察官を射殺することも可能。売春婦を車に乗せて性行為を示唆する描写(実際に車が揺れる)もあり、その後で売春婦を殺害して支払った金を取り返すことすらできてしまう。
こうした一連の行為はゲーム上なんのペナルティもなく行え、その気になれば「無差別殺人」や「警官殺し」も自由というゲーム性だった。
もちろん、現実世界では言語道断の暴力・犯罪行為をプレイヤーに追体験させる内容に対し、多くの保護者団体や教育関係者が懸念を表明した。「子供に悪影響を与える」「犯罪を助長する」といった批判はシリーズ当初からあったが、本作のヒットで規模が拡大したことで議論も加熱した。
特にアメリカでは、本作発売直後からゲーム暴力と実際の犯罪の関連性を巡る訴訟沙汰が相次いだ。2003年にはアラバマ州で起きた警官射殺事件の犯人の少年が『GTA』シリーズを好んで遊んでいたとして、遺族がメーカーを訴えるという裁判(Strickland vs. Sony事件)が起こされている。
訴状では「ゲームが少年を殺人へ駆り立てた」と主張されたが、最終的に裁判所はTake-Two側の主張(「表現の自由」の範疇であり、因果関係は証明できない)を認め、訴えは退けられた。
しかし、この種の議論はその後も燻り続け、テレビのニュース番組や討論番組でも「暴力ゲームは規制すべきか?」が頻繁に取り上げられる社会問題となった。
また前述のハイチ人差別問題も、本作が引き金の一つとなった論争である。マイアミにはハイチ系やキューバ系の移民コミュニティが実在し、ゲーム中でも「ハイチギャング」「キューバギャング」が抗争を繰り広げる設定だった。
問題視された台詞はミッション中の「ハイチ人を皆殺しにしろ(Kill all the Haitians)」という一節で、これを耳にしたハイチ系市民団体が猛抗議を行った。Rockstarは冒頭の謝罪文で「コミュニティの声を真摯に受け止め、問題の発言を削除する」と表明したが、それだけではハイチ系団体の怒りは収まらず「ゲーム自体を回収せよ」との要求や、販売店前での抗議デモに発展した。
この件にはニューヨーク市長(当時のマイケル・ブルームバーグ氏)やハイチ政府高官までがコメントを出す事態となり、「GTA問題」は人種差別や表現のモラルの観点からも注目を浴びた。
他方、日本においては欧米ほど大きな社会問題にはならなかったが、それでもCEROによる年齢規制(18歳以上のみ対象)は当然適用され、販売時には年齢確認の徹底が求められた。幸い、当時はGTAシリーズ自体がマニアックな洋ゲー扱いであり、まだ知名度も限定的だったため、大きな事件や政治的介入には至っていなかった。
ただ雑誌やWeb媒体では「過激すぎるゲーム」として紹介されることもあり、日本人の倫理観から見てもショッキングな内容であることは確かだった。カプコン発売ということでコンビニなどでも流通したが、店頭ではパッケージを裏返して暴力シーンの画像を見えなくするといった配慮がなされた例もある。
表現の自由とゲームの可能性
上述のような論争に対し、ゲームクリエイター側や支持者からは「表現の自由」と「ゲームはフィクションである」という反論が多く出された。当時Rockstarの親会社Take-Twoは法廷で「我々には成熟したゲームを未成年以外に販売する権利がある」と主張し、いくつかの訴訟でそれが認められている。
業界団体ESAや開発者コミュニティも、GTAシリーズが攻撃されるたびに声明を出し、「映画や小説で許容される暴力表現がゲームだけ槍玉にあがるのはおかしい」「ゲームにも自己表現の自由がある」と擁護した。
また、実際に本作をプレイした成人プレイヤーからは「悪いことと分かった上でカタルシスとして遊んでいる」「現実とゲームの区別くらい付く」といった声が多く、規制論には否定的な意見が根強かったのも事実。
ゲーム専門メディアや評論家からは、GTAシリーズはアメリカ社会の風刺でもあるとの評価もあった。過激な暴力の裏に、消費主義への皮肉やメディアパロディ、社会矛盾の揶揄が読み取れるという分析である。その観点では、本作も単なる「犯罪推奨ゲーム」ではなく、一種のブラックユーモアとして文化的価値を持つとの擁護もなされている。
もっとも、販売本数が累計1,700万本以上(当時)に達した現実を踏まえれば、議論の熱さ自体が本作の社会的影響力を物語っているとも言えるだろう。良くも悪くも『バイスシティ』は「ゲームが映画や音楽と同等以上に世間を騒がせうる存在」であることを証明した。
2000年代前半は他にも『マンハント』『カーマゲドン』など過激ゲーム論争があったが、GTAシリーズほど継続的に注目された例はない。このシリーズをきっかけに各国でゲーム規制の法整備が検討されたり、CEROやESRB等のレーティング制度の厳格化が進むなど、ゲーム業界全体にも影響が及んだ。
一方で、人気と物議は常に表裏一体。本作がスキャンダラスな話題を呼んだことは結果的に宣伝効果ともなり、「世界で最も有名なゲームシリーズ」の地位を確固たるものにした。批判されながらも売れ続ける様は、かつてのロックンロール音楽や暴力映画が辿った道にも通じ、ある意味「表現の自由vs社会規範」の象徴的作品として歴史に刻まれたと言えるだろう。
第8章:現代への影響とシリーズ展開

後続シリーズへの影響
本作の成功は、その後のGTAシリーズの方向性にも大きな影響を与えた。まず、本作で導入された「主人公に明確なキャラクター性を持たせる」方針は、続く『GTA:サンアンドレアス』(2004年)やHD世代の『GTAIV』(2008年)、『GTAV』(2013年)でも踏襲されている。
『サンアンドレアス』ではCJ(カール・ジョンソン)という若いアフリカ系男性が主人公となり、家族愛や裏切りなど人間ドラマに焦点を当てた物語が描かれた。『GTAIV』では東欧からの移民ニコがアメリカンドリームの現実に苦悩する物語が展開され、リアリティとシリアスさが増している。これらは、トミー・ベルセッティが示した「語る主人公」の成功なしには生まれ得なかっただろう。
ゲームシステム面でも、本作が築いた基盤は揺るぎないものとなった。広大なオープンワールドで多彩なミッションとサブ要素を楽しむという基本設計は、『サンアンドレアス』以降さらにスケールアップして引き継がれていく。
たとえば『サンアンドレアス』では舞台が州全体に広がり、RPG的なステータス育成要素やマルチプレイヤー機能などが加わった。また、シリーズごとに異なる時代背景を設定する路線も定着した。
本作が80年代を舞台に成功したことで、続編サンアンドレアスは1990年代前半の西海岸ギャング黄金期をテーマにし、大ヒットを記録している(※サンアンドレアスは最終的に本作を超える売上を達成 )。
以降も「時代と場所」を大胆に変えながらシリーズを展開する手法が続いており、『GTAIV』では現代のリバティーシティ、『GTAV』では現代のサンアンドレアス州(ロスサントス市)と、リアルタイムに近い年代を扱うようになったが、そのルーツにあるのは『バイスシティ』の成功体験である。
さらに、本作独自の要素だったラジオの充実や多彩な乗り物も、後続作品で一層磨きがかけられた。『サンアンドレアス』ではラジオ曲数・収録曲数ともに増量し、ジェット機や自転車、パラシュートまで登場している。
ゲーム内ラジオの名曲揃いなサウンドトラックという伝統は、GTAシリーズのトレードマークとなり、発売前の楽曲使用交渉に大きな労力が割かれるほど重視されるようになった。例えば『GTAV』ではなんと240曲以上をフィーチャーし、オリジナル楽曲まで制作される力の入れようだった。こうした方向性は「ゲームは音楽でも感動を与えられる」という本作の示唆が原点にある。
現代における評価と復刻展開

発売から20年以上が経った現在でも、本作はシリーズ屈指の名作として語り継がれている。多くのゲームメディアが行う「歴代GTAランキング」では必ず上位に挙げられ、ファンからの人気も根強いものがある。
その理由としては、独特の80年代レトロな雰囲気やケレン味あるストーリー展開、そして何より「楽しかった思い出」が色褪せないことが大きいだろう。ゲーム自体の操作性やグラフィックは流石に現代基準では古びているが、「あの頃の空気感」をもう一度味わいたいと本作を起動する往年のプレイヤーも少なくない。
そうした需要に応える形で、Rockstarは近年リマスター版のリリースも行った。2021年11月には、『GTAIII』『バイスシティ』『サンアンドレアス』の3作品をセットにした『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』が現行プラットフォーム向けに発売されている。
『バイスシティ』決定版では、オリジナル版から一部楽曲がライセンス切れで削除されたものの、グラフィックが高解像度化しキャラクターモデルも改善され、カメラ操作やリトライ機能の追加など遊びやすさの向上が図られた。
発売当初こそリマスターの品質に賛否もあったが、パッチによる修正を経て往年の名作を手軽にプレイできる作品集として再評価されている。
また、スマートフォン版(モバイル版)も2012年に発売10周年を記念して配信されており、こちらはオリジナル版に忠実な移植となっている。こうしたリリースによって、現代の若いゲーマーもレトロ名作として『バイスシティ』を体験できる機会が増えた。
シリーズスピンオフとしては、2006年にPlayStation Portable向けに『グランド・セフト・オート・バイスシティ・ストーリーズ』が発売されている。これは本作の2年前、1984年のバイスシティを舞台に、ランス・ヴァンスの兄ヴィクターを主人公とした外伝作品である。
PSPという携帯機向けながら、本作のマップをほぼそのまま利用し、新ストーリーと新ミッションを楽しめる内容で好評を博した(後にPS2にも移植)。このように『バイスシティ』の世界観は一度きりで終わらず、派生作品や追加エピソードで拡張されている点も注目すべきでだろう。
そして何より、ファンにとって朗報だったのがシリーズ最新作でのバイスシティ再登場の発表。Rockstar Gamesは2023年末、待望の『グランド・セフト・オートVI』のトレイラーを公開し、その舞台がバイスシティおよび近郊エリア(架空の「レオニダ州」)であることを明らかにした。
発売予定は2026とされ、男女2人組の主人公が登場するなど新要素も示唆されているが、20年ぶりに最新技術で蘇るバイスシティの姿にファンの期待は高まっている。
「太陽が燦々と降り注ぐ悪徳の都で…」というキャッチコピーにもあるように、再びあの南国の犯罪都市に降り立てる日が近づいている。こうしたシリーズ展開を見るに、『バイスシティ』という世界観がいかに魅力的で、そしてゲーム史に残る存在だったかが改めて実感できる。
終章

PS2版『グランド・セフト・オート:バイスシティ』は、ゲームデザイン、物語演出、音楽、文化的影響のどれを取っても極めて豊かな作品である。
1980年代という時代設定を活かしたスタイリッシュな世界観と、自由奔放に暴れ回れるゲーム性の融合は、多くのプレイヤーに忘れられない体験を提供した。
発売から年月が経った現在でも色褪せないのは、その体験が単なるデジタルな遊びに留まらず、まるで一本の映画や一枚の音楽アルバムのように心に刻まれているからだろう。
本作がもたらした影響は、後のオープンワールドゲームやシリーズ続編はもちろん、ポップカルチャー全般にも及んでいます。「グラセフのバイスシティ」というフレーズは、今や一種の代名詞として用いられることもあり、レトロブームの文脈で80年代を振り返る際にも本作が引き合いに出されるほどである。
論争も巻き起こしたが、それすら含めてエンターテインメントの可能性と限界に挑んだ金字塔であったと言えるだろう。
もしまだ遊んだことがない方は、ぜひこの機会にバイスシティの世界へ足を踏み入れてみてほしい。
トミーと共に太陽の照りつけるビーチからネオン瞬くナイトクラブまで駆け巡り、ラジオから流れる80年代サウンドに耳を傾ければ、きっと当時の興奮が蘇るはず。
そして既に遊び尽くしたという方も、次はリマスター版で、あるいは数年後の『GTAVI』で再訪するバイスシティに思いを馳せてみてはいかがだろうか。犯罪と欲望が渦巻くバイスシティは、これからも色褪せることなく我々を魅了し続けるに違いない。

