1998年に発売されたプレイステーション用ゲーム『メタルギアソリッド』は、ステルスアクションに映画のような演出と緻密な物語を組み合わせた名作として知られている。
ゲームの舞台は冷戦終結後の2005年 、アラスカ・アリューシャン列島に浮かぶ無人島「シャドー・モセス島」の核廃棄施設。この場所で勃発した「シャドーモセス事件」は、主人公ソリッド・スネークの過去と世界の裏側で蠢く陰謀が交錯する物語である。
本稿では、オープニングからエンディングまでの流れを詳細に追い、登場人物や用語を解説しながら物語を紹介して行く。
プロローグ:伝説の傭兵、再び戦場へ

ソリッド・スネークは「メタルギア」「メタルギア2 ソリッドスネーク」で世界を救った英雄だが、ザンジバーランド騒乱後にFOXHOUNDを退役し、アラスカで犬橇使いとして隠遁生活を送っていた。
そんな彼に、米国政府から極秘任務が下る。特殊部隊FOXHOUNDの精鋭部隊と次世代特殊部隊が「シャドー・モセス島」の核廃棄所を占拠し、伝説の英雄ビッグボスの遺体と5億ドル(海外版では10億ドル)を24時間以内に引き渡すよう要求したのである。
この蜂起を率いるのは、スネークと瓜二つの姿を持つリキッド・スネーク。彼らは自らを「ビッグボスの息子達」と名乗り、要求が受け入れられなければ核発射を行うと脅迫。
国防総省は元FOXHOUND司令官のロイ・キャンベル大佐を鎮圧作戦の指揮官として召集し、スネークに単独潜入を依頼する。
スネークの任務は二つ――DARPA局長ドナルド・アンダーソンとアームズ・テック社社長ケネス・ベイカーの救出、そしてテロリストの核発射阻止。
彼は不本意ながら任務を受け、再び戦場へ向かう。
シャドー・モセス島への潜入

アラスカ上空はブリザードが吹き荒れ、上陸は困難だった。スネークはオハイオ級原子力潜水艦から小型潜水艇で島の近海へ向かい、雪と氷に覆われた施設へ泳ぎ着く。
彼を支えるのは無線支援チーム――司令官のキャンベル大佐、メディカルスタッフのナオミ・ハンター、戦術支援のマクドネル・ミラー(マスター)、データ解析担当のメイ・リン、核専門家ナスターシャ・ロマネンコといった面々。
彼らはコーデックと呼ばれる通信機器で会話し、装備や敵の位置を知らせてくれる存在である。
スネークは「スニーキング・ミッション」(潜入任務)を開始し、敵に見つからないよう慎重に進んで行く。
監禁された要人を求めて

まずスネークが目指したのは、囚われたDARPA局長の安否確認だった。施設内に空調ダクトを通じて忍び込み、監房に辿り着いたスネークは、拘束されているドナルド・アンダーソンから驚くべき話を聞き出す。
アンダーソンは、シャドー・モセスに秘密裏に開発されていた新型二足歩行核搭載戦車「メタルギアREX」の存在を告白する。
REXの起動には二つの解除コードが必要だが、テロリストは超能力者サイコ・マンティスの読心術でパスワードを盗もうとしているという。
更にREXを停止するには、PALカードキーと呼ばれる三枚一組の特殊キーを特定の順序で入力する必要があると教える。
しかしその直後、局長は突然苦しみ出して謎の心臓発作で死亡。スネークは疑念を抱きつつも次の目標へ向かう。


次にスネークはアームズ・テック社社長ケネス・ベイカーの元へ向かう。
地下武器庫で彼を人質に取っていたのはリボルバー・オセロット。拳銃の名手で拷問好きのこの男と対決する中、突然ステルス迷彩を身にまとった謎のサイボーグ忍者が乱入し、オセロットの右腕を切り落として退ける。
この忍者はスネークの旧友グレイ・フォックスであり、かつてザンジバーランドで倒されたはずの戦士だったが、遺体を回収され人体実験の末にサイボーグ化された存在であることが後に判明する。
ベイカーはメタルギアREXが攻撃型核兵器であることを知らずに開発していたと弁明し、マスターキーであるPALカードの所在を伝えた後、彼もまた心臓発作で死亡してしまう。
「ビッグボスの息子達」との戦い

島内を進むスネークの前には、FOXHOUNDの精鋭たちが立ちはだかる。核廃棄施設の外では、戦車を操るバルカン・レイブンの待ち伏せがあった。
彼は重装甲のM1戦車に乗り込み、スネークを圧倒しようとするが、スネークはクレイモア地雷や手榴弾を駆使してこれを撃破する。

その後、研究所でサイボーグ忍者と再び遭遇し、正体がグレイ・フォックスであると確信する。
ナオミは彼を復活させるために米軍が行った極秘実験の詳細を語り、フォックスが自我を失い戦闘本能だけで動いていることを明かした。

メタルギア開発主任のハル・エメリッヒ――コードネーム「オタコン」――もここで登場する。
彼はミサイル防衛用の兵器を作っていると騙されており、REXが核兵器であると知ってショックを受ける。
アニメ好きの彼は自身の名を「オタク・コンベンション」に由来すると語り、スネークへの協力を決意。以後、ステルス迷彩を使って背後支援を行う。

やがてスネークはキャンベル大佐の姪である新米兵士メリル・シルバーバーグと合流する。彼女はFOXHOUND部隊の一員として演習に参加していたが、テロに反対し捕虜とされていた。
彼女はベイカーから受け取ったPALカードをスネークに託し、一緒に行動すると主張する。二人の間には徐々に信頼関係が芽生えるが、その矢先に超能力者サイコ・マンティスが登場し、メリルの精神を操ってスネークを襲わせる。

マンティスはサイコキネシスやテレパシーを駆使する異能の兵士で、プレイヤーのコントローラー操作さえ読み取る演出で有名。
スネークは彼のトリックを見破り、通信端子を変更するという機転で撃破する。
敗北したマンティスは、自らとスネークの心に通じ合う部分を感じながら息を引き取り、メリルへの想いを認めるよう示唆する。

マンティス戦を乗り越えたスネークたちだが、今度は狙撃手スナイパー・ウルフが待ち構える。
彼女はシベリア出身の名狙撃手で、メリルを狙撃して重傷を負わせ、人質にすることでスネークをおびき出そうとする。
スネークは苦難の末にウルフを撃退に成功するが、そこにメリルの姿は無かった。
捕縛と拷問、そして謎の死体

メリルを救うために戻る途中でスネークは捕らえられ、リボルバー・オセロットによる拷問を受ける。(拷問に耐えるか屈服するかによってエンディングが変化するのも本作の特徴である。)
独房に監禁されたスネークは、腐乱したDARPA局長の遺体を発見する。彼が聞いたはずの局長がすでに数日も前に死んでいたと知り、混乱は深まる。
仲間の助けを得て脱出したスネークは、スナイパー・ウルフ、バルカン・レイブンを続けて倒し、メタルギア格納庫へ向かう。

この頃、ナオミ・ハンターの素性が偽装されていたことが判明し、彼女はスパイ容疑で拘束される。
彼女は無線でスネークに連絡し、自分がグレイ・フォックスの義妹であり、復讐のために計画に加わったこと、そしてスネークにFOXDIE(フォックス・ダイ)と呼ばれるナノマシンウイルスを注射したことを告白する。
FOXDIEは標的の心臓に作用し心臓発作を起こさせる暗殺用ウイルスであり、テロリストの排除と同時に証拠隠滅のためスネーク自身も対象に設定されていたのである。
彼女は国防総省に渡されたFOXDIEを独断で改変し、標的を変更していたことも明かす。
積み重なる策謀:デコイ・オクトパスと偽ミラー

メタルギア格納庫に到達したスネークは、PALカードを使って核システムを停止させようとふる。しかし入力後、システムは逆に起動してしまう。
その時、通信に割り込んできたマスター・ミラーが実はリキッド・スネークであり、彼がアドバイザーを装ってスネークを操っていたことが判明する。
本物のミラーは数日前に殺害されており、リキッドはその死体の存在が発覚するまで通信を利用していたのである。
更に、監房で出会ったとされるDARPA局長は変装の達人デコイ・オクトパスであり、本物の局長は拷問で死亡していた。オクトパスは全身の血液を入れ替えるほど徹底した変装を行い、心臓発作で死んだように見せかけていた。
パスワードは最初から入手できなかったため、リキッドはスネークにPALカードを集めさせてシステムを起動させたのである。
リキッドは、国防総省がスネークをFOXDIE運び屋として利用したことを暴露する。キャンベル大佐もメリルを人質に取られたことで情報を隠していたと認め、スネークに謝罪する。
こうして、事件の裏に潜む複数の勢力の思惑が明らかになって行く。
最終決戦:メタルギアREX破壊

核発射システムが起動した今、止める方法はメタルギアを破壊するしかなかった。スネークは格納庫で起動したばかりのREXに対峙し、リキッドが搭乗する巨体に立ち向かう。
しかし最新鋭兵器を前に苦戦するスネーク。そこへグレイ・フォックスが現れ、捨て身の攻撃でREXのレーダードーム(ラドーム)を破壊。
このラドームはREXの外界センサーであり、これを失ったことでリキッドはコックピットを開けざるを得なくなる。フォックスは最後にナオミに自分が彼女の両親を殺したことを告白し、贖罪の死を遂げる。

フォックスの犠牲を無駄にしないため、スネークはスティンガーミサイルを連射し、ついにメタルギアREXの破壊に成功する。
気を失ったスネークが目覚めると、リキッド・スネークが立っていた。
彼は「恐るべき子供達(Les Enfants Terribles)」計画の真実を語る。1970年代、米政府は伝説の兵士ビッグボスのDNAを用いて八つ子のクローンベビーを作り、その中から二人――ソリッドとリキッド――の成長を促すため遺伝子操作を施した。
優性遺伝子はソリッドへ、劣性遺伝子はリキッドへ集中させられたとリキッドは信じ、自分が劣った存在だと憎悪を燃やしていたのである。
彼らゲノム兵士の遺伝子には奇病が発生し始め、ビッグボスの遺体を要求したのも治療法を求めてのこと。リキッドは父の遺志を継ぎ、戦士が生き続けられる「アウターヘブン」を建設するため世界を揺るがそうとしていた。

リキッドとスネークはREXの残骸の上で素手の決闘を行う。壮絶な殴り合いの末、スネークはリキッドを打ち倒す。
しかし戦いは終わっていなかった。国防総省は証拠隠滅のため基地の核攻撃を決定しており、キャンベル大佐は大統領に連絡し空爆中止を求める。
リキッドは最後の力を振り絞り、スネークたちが基地から脱出しようとするジープに再び襲い掛かるが、その瞬間FOXDIEが発動し心臓発作で倒れる。
ウイルスによってターゲットが死ぬ様子を目の当たりにしたスネークは、自分もいつか死ぬかもしれない運命に思いを馳せる。
エピローグ:雪原に残されたもの

スネークとメリル(あるいはオタコン)はジープを乗り捨て、氷原をスノーモービルで駆け抜けて島を脱出する。
キャンベル大佐からの報告で、国防省長官ジム・ハウスマンが独断で空爆を命じていたことが明らかになり、大統領命令で長官は逮捕され、空爆は中止された。
作戦後、キャンベルはスネークとメリルを「戦死扱い」にすることで政府の目を欺き、彼らの自由を守ると約束する。
ナオミは拘束を解かれ、FOXDIEの発動時期は「あなたの生き方次第」と告げ、スネークに生き続けることを勧める。
エンディングには二種類存在する。
拷問に耐え抜いた場合、メリルは生き延び、二人は互いの本名――スネークの本名「デビッド」、メリルの本名「メリル」を呼び合いながら新たな人生を歩むことを誓う。
拷問に屈した場合、メリルは死亡し、スネークはオタコンと脱出する。二人は本名で呼び合い、これから己の道を見つけると語り合う。
どちらの結末でも、スネークは自分の過去と向き合いながら新しい道を探し始める。
ちなみにどちらも生存しているのが正史ルート。
事件の後日談と影響

シャドー・モセス事件の裏で暗躍していた人物が、もう一人いる。
リボルバー・オセロットは実は二重スパイであり、事件のデータを全て大統領へ報告していた。この大統領とは、ビッグボスの完全なクローンである第三のスネーク「ソリダス・スネーク」だった。
オセロットは事件後、REXのデータを流出させ、シリーズ続編へと繋がる陰謀を進める。米政府は事件の存在を否定し、右派過激派のテロとして処理しようとした。
しかし事件を目撃した人々はその真相を語る書籍『シャドーモセスの闇の中で』を執筆し、真実が完全に隠蔽されることはなかった。
本作は、ゲーム内で遺伝子操作や核抑止、兵器産業と政府の癒着といった現実の社会問題を取り上げている。登場人物たちはそれぞれの信念や過去に苦しみながらも、人間としての生き方を模索し続ける。
ソリッド・スネークは自身がクローンであるという出自に翻弄されながらも、自分の生き方を他者によって決められたくないと語り、自由意志の象徴として描かれる。
一方、リキッド・スネークは遺伝子に縛られた運命に抗おうとするも、その過程で父と兄を憎み、戦いの中で滅んでしまう。彼らの対比は、遺伝子が運命を決めるのか、人の意思が未来を創るのかという作品のテーマを強調している。
用語解説
ソリッド・スネーク / リキッド・スネーク
本作の主人公ソリッド・スネークは、伝説の兵士ビッグボスのクローンとして生み出された一人。コードネームは「ソリッド」、本名はデビッド。
過去にメタルギアを二度破壊した英雄であり、ステルスと戦闘の達人。
リキッド・スネークは彼とほぼ同じ遺伝子を持つ双子で、ブロンドの髪と浅黒い肌を持ち、戦士の理想郷「アウターヘブン」建設を目指した。
自らの遺伝子が劣性だと信じていることから、優性遺伝子を持つソリッドを憎んでいる。
メタルギアREX
二足歩行型核兵器メタルギアREXは、アームズ・テック社と米軍が極秘裏に開発していた兵器で、核弾頭を搭載したレールガンで核攻撃を可能にする。
レーダードームにより敵の攻撃を無力化する索敵能力と、高い機動性が特徴で、従来の核兵器抑止のバランスを崩す危険な存在。
FOXHOUND
FOXHOUNDは米軍の特殊部隊で、精鋭兵士たちが極秘任務に従事する。
かつてソリッド・スネークも所属していたが、シャドー・モセス事件では指揮官リキッド・スネークの下で蜂起し、テロリスト集団となった。
メンバーにはリボルバー・オセロット、サイコ・マンティス、バルカン・レイブン、スナイパー・ウルフ、デコイ・オクトパス、そしてグレイ・フォックス(後にサイボーグ忍者)が含まれる。
PALカード / 暗号解除システム
PALカードは、Metal Gearの起動・停止に用いられる特殊なカードキー。三枚一組だが形状記憶合金製で、温度によって形が変わり三種類の認証を行える。
スネークは常温・低温・高温の順に変形させてカードを使い、核システムを停止しようとしたが、リキッドの策略により逆に起動させてしまう。
FOXDIE
FOXDIEはナノマシンベースの遺伝子兵器で、特定のDNAパターンを持つ人物に感染すると一定時間後に心臓発作を引き起こす。
ナオミ・ハンターがスネークに注射し、最初の標的はFOXHOUND隊員とベイカー社長だった。
しかしナオミは標的を変更し、結果としてリキッド・スネークやオセロットには効果が発動しなかった。スネーク自身もFOXDIEの発症時期が不明なまま生き続ける運命にある。
恐るべき子供達計画(Les Enfants Terribles)
1970年代に米政府が極秘に実施した人間兵器計画で、ビッグボスの遺伝子からクローンを生み出し、優秀な兵士を量産しようとした。
計画により生まれたソリッド・スネークとリキッド・スネークは、遺伝子操作によってそれぞれ優性・劣性の特性を付与されたとされる。
後年、もう一人のクローン「ソリダス・スネーク」も存在が明らかになり、本作の後のシリーズ作品で重要な役割を果たす。
結語:遺伝子と意志の物語

『メタルギアソリッド』は、単なるアクションゲームではなく、遺伝子操作、核抑止論、兵器産業、戦争の倫理といった深刻なテーマを盛り込みながら、人間の自由意志を問いかける物語になっている。
ソリッド・スネークは自らの遺伝子が他者によって決められた存在であることを知りつつも、それに縛られず自分の生き方を選択しようとする。
それは、リキッド・スネークが「遺伝子の呪縛」に囚われ復讐に身を委ねた姿の対極となっている。
物語を彩る個性的な仲間や敵は、彼ら自身の過去や信念によって動き、プレイヤーに多様な視点を提示している。
ゲームのラストで、スネークは雪原を見渡しながら「人生を楽しむ」と語る。世界を救う使命から解き放たれた彼は、遺伝子に支配されない自分自身の人生を歩み始める。
シャドー・モセス事件は終結したが、メタルギア計画とクローン兵士を巡る陰謀はこれで終わりではなく、シリーズは続編へと展開して行く。
本作はシリーズの転機となり、ゲーム史に残る名作として多くのファンの心に刻まれている。
