2026年2月、世界のゲーム業界に大きな衝撃を与えるニュースが報じられた。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、傘下の精鋭開発スタジオであるブルーポイント・ゲームス(Bluepoint Games)を閉鎖することを決定したのである。
アメリカ合衆国テキサス州オースティンに拠点を置くこのスタジオは、過去の名作を現代の最新技術で蘇らせる「リメイク」および「リマスター」の分野において、世界最高峰の技術力を持つ集団として知られていた。
2021年のSIEによる正式な買収からわずか4年半、そしてスタジオ設立から18年という節目での活動終了は、単なる一企業の事業再編という枠を超え、現代のハイエンドゲーム開発が直面している極めて深刻な構造的課題を浮き彫りにしている。
本記事では、ブルーポイント・ゲームスがいかにして「リメイクの巨匠」としての地位を確立したのか、その設立から成長の軌跡、彼らが遺した革新的な開発タイトルの詳細、そしてなぜこれほどまでに高く評価されていたスタジオが閉鎖という運命を辿ることになったのかについてを分析してみようと思う。
第1章:ブルーポイント・ゲームスの誕生と「職人集団」としてのルーツ

ブルーポイント・ゲームズがどこにある会社か知っていますか?答えはアメリカのテキサス州オースティンという街。2006年に、アンディ・オニールとマルコ・スラッシュという二人の凄腕技術者によって設立された。
この二人がただ者ではない。実は彼ら、任天堂の超名作『メトロイドプライム』シリーズを開発していた「レトロスタジオ」の中心メンバーだったのである。
アンディ・オニールは『メトロイドプライム』の1作目と2作目で技術リーダーを務め、サムスのあの独特な動きや武器の演出を作り上げた人物であり、マルコ・スラッシュも同じく、初期のシリーズを支えた天才エンジニアだった。
彼らがブルーポイントを立ち上げた時、目指したのは「自分たちの技術力で、ゲームの可能性を極限まで引き出すこと」だった。最初はたった二人からのスタートだったが、その技術力はすぐにソニー(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の目に留まることになる。

多くの人が「ブルーポイント=リメイク専門」と思っているかもしれないが、実はデビュー作はオリジナルのシューティングゲーム『ブラストファクター』だった。
この『ブラストファクター』は、PS3の発売に合わせてリリースされた。当時のPS3はまだ出たばかりで、開発が非常に難しいと言われていたのだが、彼らは持ち前の技術力でさらっと高画質なゲームを作り上げてしまったのである。
これがソニーとの15年以上にもわたる深い絆の第一歩となった。
第2章:リマスターの達人へ――「古いゲーム」を「宝物」に変える魔法
ブルーポイントが海外のファンから「神」と崇められるようになったきっかけは、過去の名作を最新機種向けに作り直す「リマスター」や「リメイク」の仕事だった。
彼らのリマスターは、ただ画質を上げるだけじゃない。「もし当時の開発者が今の機械を使えたら、どう作っただろうか?」という視点で、フレームレート(動きの滑らかさ)を安定させ、操作性を改善し、まるで最初からその機種のために作られたかのような完璧な調整を施した。

2009年、彼らは歴史に残る仕事を成し遂げる。PS2の名作『ゴッド・オブ・ウォー』の1作目と2作目を、PS3向けに1枚のディスクにまとめた『ゴッド・オブ・ウォー コレクション』である。
これが大ヒットし、業界に「過去の名作をHD(高画質)で蘇らせる」という流行を作り出す。その後も、ブルーポイントはソニーやコナミから「絶対に失敗したくないプロジェクト」を次々と任されるようになる。
主なリマスター作品
特に『アンチャーテッド コレクション』では、単に画質を上げただけでなく、キャラクターの顔の作り込みや影の表現まで手を入れている。専門家からも「これはもはやリマスターではなく、リメイクに近い」と絶賛されるほどだった。
ブルーポイントには、「ブルーポイント・エンジン」という自社で作った特別な道具(ゲームエンジン)があった。これを使うことで、別の会社が作った古いゲームのデータを、自分たちの最新技術で動かすことができた。
この「他人の土俵でも最高の結果を出す」技術こそが、彼らの最大の武器だった。
第3章:リメイクの神様へ――「ワンダと巨像」と「デモンズソウル」の衝撃
2018年、ブルーポイントはさらなる高みへ到達する。それまでは「古いデータを磨く」のが主流だったが、ついに「すべてをゼロから作り直す」フルリメイクに挑戦。
PS4版『ワンダと巨像』で見せた奇跡

PS2時代の伝説的ゲーム『ワンダと巨像』。これをPS4向けにリメイクする際、彼らはとんでもない手法を使う。
なんと、元のゲームの「魂(プログラムの核)」はそのまま動かしつつ、目に見える「体(グラフィック)」や「声(サウンド)」を最新のものに総入れ替えしたのである。
これにより、オリジナルの独特な手触りや雰囲気を1ミリも壊すことなく、現代の最新ゲームに負けない圧倒的な美しさを実現した。巨像の毛一本一本が風に揺れ、広大な大地に光が差し込む様子は、多くのプレイヤーを歓喜させた。
PS5の顔になった『デモンズソウル』

そして2020年。次世代機PS5の発売日、世界中が息を呑みました。ローンチタイトルとして登場した『デモンズソウル』のリメイク版である。
このゲームは、もともとフロム・ソフトウェアが作った「死にゲー」の元祖。ブルーポイントは、その難易度や緊張感はそのままに、PS5の性能をフルに使って映像を作り上げた。
- 爆速ロード:死んでもすぐに復活できるので、ストレスが激減。
- ハプティックフィードバック:剣が弾かれる感覚が手に伝わる。
- 圧倒的な映像美:どんよりとした城の空気感や、火花の輝きがリアル。
この作品は140万本以上売れ、ブルーポイントは名実ともに「世界最高のリメイクスタジオ」としての地位を固めた。
ゲーム内容に関しては賛否が分かれる形となったが…。
第4章:ソニー傘下への加入――約束されたバラ色の未来……のはずだった

『デモンズソウル』の大成功を受けて、ソニーが遂に動き出す。2021年9月、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)はブルーポイント・ゲームズを完全に買収し、「プレイステーション・スタジオ(PlayStation Studios)」の一員に迎えると発表。
実は、この公式発表の数ヶ月前に、ソニーの日本公式ツイッター(現X)が間違えて「ブルーポイントが仲間入り!」という画像を投稿してしまい、すぐに消すというハプニングもあった。
ファンの間では「やっぱりね!」「最高の組み合わせだ!」と祝福の嵐が巻き起こったのを覚えている。
買収された際、マルコ・スラッシュ社長はこう語っていました。「次はリメイクだけでなく、自分たちのオリジナルのゲームを作りたい」と 。
リメイクで培った圧倒的な技術力を、自分たちの新しい物語に注ぎ込む。誰もが「PS5で最高の新作が出るぞ」と確信していた。
しかし、ここから歯車が少しずつ狂い始める。
第5章:迷走の4年間――「ライブサービス」の罠と中止されたプロジェクト
ソニーファミリーになったブルーポイントだったが、その後、彼らの名前を新作ニュースで聞くことはパタリとなくなる。一体、スタジオの中で何が起きていたのだろうか?
当時、ソニーのトップだったジム・ライアン氏は、ある戦略を強力に進めていた。「オンラインでずっと遊び続けられるゲーム(ライブサービス型ゲーム)をたくさん作る」という方針である。
ブルーポイントもその波に飲み込まれた。彼らが本来得意としていたのは「一人でじっくり遊ぶ、最高の物語と映像のゲーム」である。しかし、ソニーの意向で開発することになったのは、意外なタイトルだった。
リークされた情報によると、ブルーポイントは2022年頃から『ゴッド・オブ・ウォー』の世界観を使ったオンライン対戦ゲームを出かけていたという。
最近の北欧神話シリーズではなく、昔のギリシャ神話時代を舞台にしたゲームで、冥界の王ハデスが登場するような内容だったそうだ。
しかし、慣れないオンラインゲームの開発は難航したという。さらに、ソニー全体で「ライブサービス型ゲームを急ぎすぎて、中身が伴っていない」という批判が強まり、多くのプロジェクトが見直されることになった。
そして2025年1月、この『ゴッド・オブ・ウォー』のプロジェクトは正式に中止となる。
プロジェクトが中止された後も、ブルーポイントは諦めなかった。
「それなら得意のリメイクをやらせてくれ!」「新しいアクションゲームの案がある!」と、ソニーに何度も提案(ピッチ)を行ったと言われている。
しかし、ソニー側の返事は「ノー」だった。
ゲームの開発費が今や300億円を超えるほど高騰しており、ソニーは「絶対に大ヒットする保証がないものにはお金を出さない」という非常に厳しい姿勢になっていたのである。
結局、ブルーポイントが提示したどのアイデアも認められることはなく、スタジオは「仕事がない」という異常な状態に陥ってしまったと報道されている。
第6章:衝撃の閉鎖決定――2026年3月、職人たちの終焉

そして、ついにその時がやって来た。
2026年2月19日、大手メディアのブルームバーグ(Bloomberg)などが一斉に報じた。「ソニーがブルーポイント・ゲームズを閉鎖することを決定した」と。
プレイステーション・スタジオの責任者、ハーマン・ハルスト氏から従業員に送られたメールの内容は、非常に厳しいものだった。
閉鎖の理由は、主に以下の4つにまとめられる。
- 開発費の高騰:良いゲームを作るのに、お金がかかりすぎて採算が合わなくなった。
- 業界の成長が止まった:ゲームを遊ぶ人が爆発的に増えなくなり、競争が激化した。
- プレイヤーの変化:みんなが特定の有名なゲームばかり遊ぶようになり、新しいものが売れにくくなった。
- 経済の影響:世界的な不景気で、親会社がリスクを取れなくなった。
この閉鎖により、約70名の才能あるスタッフが仕事を失うことになった。ソニーは「他のスタジオへの異動も検討する」と言っているが、ブルーポイントというチームが築き上げてきた20年の歴史と結束が、完全に壊れてしまうことに変わりない。
買収から4年半。結局、ブルーポイントはソニーの傘下で、ただの一本もゲームを発売することなく消えていくことになったのである。
あとがき:さよなら、そしてありがとう
ブルーポイント・ゲームズという名前がなくなるのは、本当に寂しいことです。筆者はリメイク版『デモンズソウル』を非常に遊び込んでたが故に、この報道にはショックを隠せなかった。
彼らが手がけたゲームを遊ぶとき、私たちはいつも「このゲーム、こんなに綺麗だったっけ?」という新鮮な驚きと、「やっぱりこのゲーム、最高に面白い!」という懐かしい感動を同時にもらっていた。
昔の思い出を汚すことなく、むしろ最高に美しく塗り替えてくれる。そんな彼らの「魔法」がもう見られないと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになる。
でも、彼らが残した作品が消えるわけではない。
PS4で動く『ワンダと巨像』も、PS5で今も輝いている『デモンズソウル』も、私たちが遊び続ける限り、彼らの情熱はそこに生き続けるのである。
ブルーポイント・ゲームズの皆さん、約20年間、本当に素晴らしい体験をありがとうございました。それぞれのスタッフが新しい場所で、また私たちを驚かせてくれる日が来ることを心から願っている。
