ファイナルファンタジーI:ストーリー解説
第3章:炎の山グルグ・火のクリスタルと灼熱の試練
十二人の賢者
大地に平穏を取り戻した光の戦士たちは、次なる目的地へと旅を続る。土のカオス撃破後、メルモンドの人々から「東のクレセントレイクという町に賢者ルカーン様がおられる」との情報を得ていた。ルカーンといえば、まさに光の戦士の予言を遺した伝説の賢者である。
「えっ?!ルカーンって現代に生きてる人なの?!」って思ったのは筆者だけじゃないはず。
4人は船で更に東へ航路を進め、三日月島に囲まれた湖の町クレセントレイクに到着する。

クレセントレイクにはルカーンを含め十二人の賢者が集い、世界の危機に備えて議論を重ねていた。賢者たちは光の戦士の訪れを待ち望んでいたかのように迎え入れてくれる。
その中の一人、白髪の老人・ルカーンは静かに語りかけた。
土のカオスは倒れた。しかし火・水・風のクリスタルにも闇が満ちている。次なる試練は火のクリスタル…火山の炎を司るカオスを討つのだ。
賢者たちは4人にカヌーを手渡す。それは活火山地帯へ分け入るための小舟である。世界の火の力を取り戻す使命を胸に、光の戦士たちは灼熱の大地へ旅立って行く。
グルグ火山に待ち構える”火”のカオス・マリリス

火山地帯へ続く川をカヌーで遡り、やがて地表から炎が噴き出す山――グルグ火山(炎の洞窟)に辿り着く。火山内部は燃え盛る溶岩の海で、空気までが揺らめいていた。
耐え難い熱波の中、一行は傷つきながらも溶岩地帯を踏破し、火山の最深部へと進む。そこに待っていたのは、火のクリスタルを抱く火のカオス・妖艶なる魔物マリリスだった。下半身が巨大な蛇と化した悪魔の女王マリリスは、六本の腕にそれぞれ炎を纏う剣を握っている。
我が業火に焼かれて果てよ!
雷のような声と共に、燃え盛る剣を振るって襲いかかって来た。周囲の溶岩が波打ち、洞窟全体が揺らめく中での死闘が繰り広げられる。光の戦士たちも負けじと炎耐性の魔法で身を守りつつ反撃する。
マリリスの剣が放つ火柱が彼らを何度も襲うが、幾度倒れても立ち上がり、最後は渾身の連撃でマリリスを打ち破る。その瞬間、火のクリスタルが眩い火炎色の輝きを取り戻す。消えかけていた世界の炎の力が蘇り、火山の噴火は鎮静化して行った。
こうして土・火二つのクリスタルの光が戻る。だが、依然として世界には闇の兆候が残っている。空を見上げれば冷たい風は止んだまま、海も不穏に荒れ狂ったまま…。光の戦士たちはさらなる冒険の必要を感じ、次の目的地へと心を巡らせた。
第4章:幻の空艇とクラスチェンジ・さらなる高みへ
あまりにも険しすぎる氷の洞窟

火山の試練を乗り越えた一行は、クレセントレイクの賢者たちの元に戻り、次なるヒントを求めた。賢者の一人は言う。
古代の氷の洞窟に浮遊石が眠っているとの伝承がある。それがあれば失われし乗り物を目覚めさせることができよう。
浮遊石とは、一握りで巨岩を浮かすと謂われる不思議な石。4人は早速、氷の洞窟を目指すことになった。
大陸北部の寒冷地帯にある氷の洞窟は、一面が氷で覆われた危険な迷宮だった。足を滑らせれば谷底へ真っ逆さまという場所で、洞窟内には凍てついたアンデッドや悪霊が徘徊している。
油断すれば、ダークウィザードが一瞬で全滅を狙って来たり、緊張感を漂わせながらも最深部へ辿り着いた光の戦士たちは、ついに伝説の『浮遊石』を手に入れる。
世界を広げる飛空艇
凍える寒さの洞窟から戻った彼らは、クレセントレイク南方に広がる砂漠地帯へ向かう。伝承によれば、かつてこのリュカーン砂漠に古代文明の飛行船が埋まっているというのだ。

半信半疑で浮遊石を空高く掲げたその時――突如地面が轟音とともに割れ、砂の中から巨大な影がせり上がって来る。それは紛れもなく船だった。空飛ぶ船、すなわち『飛空艇』である!長い年月地中に眠っていたにも関わらず、浮遊石の魔力に応じて奇跡的に姿を現したのだ。
一行は歓喜し、飛空艇に乗り込む。プロペラが回転し、甲板が震えると、飛空艇は砂煙を上げながらふわりと宙に浮かび上がる。
こうして光の戦士たちは大空を駆る術を手に入れたのであった。
この飛空艇の登場は当時のRPGとして画期的な要素だった
と、当時のプレイヤーや専門家が語っているのをよく見る。
広大な世界を高速で移動できるようになる興奮は、プレイヤーにも強い爽快感を与え、後のFFシリーズでも飛空艇は冒険に欠かせない存在として継承されていく。
竜王バハムートと職業
空を自由に移動できるようになった彼らは、これまで行けなかった遠方の地にも足を延ばせるようになる。各地の町や島を巡る中で、光の戦士たちはとある小島の洞窟で不思議なドラゴンたちに出会う。

ドラゴンの王バハムートは、人語を解する誇り高き龍。バハムートは4人の力を試すため、北東の孤島にある試練の城で『勇気の証』を取ってくるよう命じる。
試練の城は古代の王が築いたと言われる迷いの塔で、中には強力なアンデッドや巧妙な謎かけが待ち受けている。死闘をくぐり抜け、最上階の祭壇から勇気の証である一片の『ねずみのしっぽ』を持ち帰った光の戦士たちは、再びバハムートのもとへ赴く。
ドラゴン王は小さな尻尾を見て満足気に頷くと、
汝らの勇気、しかと見届けた。我が名において新たな力を授けよう。
と宣言する。すると眩い光が4人を包み込み、その身体に変化が起こる。若き戦士は逞しきナイトへ、モンクは伝説のスーパーモンクへ、黒魔術士と白魔術士はそれぞれ黒魔道師・白魔道師へ…全員が一回り成長した姿へとクラスチェンジしたのである。
こうして力を増した光の戦士たちは、残るクリスタルの闇に立ち向かうべく、更なる冒険へ飛び立って行く。
第5章:水のクリスタルと3番目のカオス

飛空艇で世界を巡る中、一行は西方の砂漠で怪しげなキャラバン商人に遭遇する。彼らが扱っていた瓶詰めの妖精(恐怖すぎる笑)を救出すると、妖精は感謝のしるしに伝説の『オキシエール』を分け与えてくれる。これは人魚の住む海の神殿に潜るために必要な「空気の水」。次なる目的地は、水のクリスタルが沈む海底の神殿です。光の戦士たちは海辺の町オンラクに赴き、そこで手に入れた潜水カプセルを使って海底神殿へと潜航した。
海底神殿に出現したカオス
かつて海底には水の民が築いた美しい神殿があったが、水のカオスが現れた200年前に海へ沈んだと言う。神殿内部にはかつての文明の名残が残り、人魚たちが上層で細々と暮らしていた。彼女たちは
水のクリスタルが闇に染まって以来、海は荒れ、人魚族も滅びかけています…
と嘆き、光の戦士たちに希望を託す。
一行は神殿の最下層を目指して進み、途中の宝物庫で古代の石板『ロゼッタ石』を発見する。そしていよいよ最深部の玉座の間に踏み込むと、そこには巨大なタコの化け物クラーケンが待ち構えていた。水のクリスタルをねじ曲げた水のカオスである。
クラーケンは八本の触手で戦士たちを絡め取り、容赦なくしめつけて来る。また水魔法で大渦を生み出し、彼らを翻弄した。水中戦の不利もあり苦戦を強いられるが、鍛え上げたナイトの剣と上級魔法を身につけた魔道師たちの力で少しずつ形勢を覆す。
そして最後は全員の総攻撃でクラーケンを撃破。すると青白く濁っていた水のクリスタルが清らかな水色の輝きを取り戻し、海域に安らぎが戻っていく。

海底神殿から帰還した光の戦士たちは、入手したロゼッタ石を携えて知恵者を訪ねました。メルモンドの学者ウネ博士は言いました。「これは古代ルフェイン族の言語を解読する鍵だ!」ウネ博士はロゼッタ石から古代文字を読み解き、4人にルフェイン語を教えてくれる。
かつて空を飛ぶ文明を築いたとされるルフェイン人は今どこに…? 手がかりを胸に秘め、世界を捜索した彼らは、やがて辺境の地でひっそり隠れ暮らすルフェイン人の集落を発見する。
ルフェイン人たちは青い髪を持つ誇り高き民だった。彼らは自らの高度文明が400年前に滅んだ経緯を語ってくれた。それは風のカオスの出現――天空に浮かぶ彼らの故郷が、突然現れた魔物によって乗っ取られたというのだ。
風のクリスタルが闇に染まったことで空は裂け、彼らの天空都市は地に墜ちてしまう。辛うじて生き延びた者たちが今の集落の人々だったのです。
風のカオス、名をティアマット。あれを討たねば風は戻らぬ…
長老は悲しげにそう呟いた。しかし同時に、彼らは光の戦士たちに最後の希望を見出す。ルフェイン人は天空に通じる塔への鍵として『チャイム』という鈴を授けてくれる。
砂漠の中心に佇む『幻の塔(ミラージュの塔)』を登りなさい。チャイムがあれば、かつて我らが築いた天空の城へ行けるだろう。
こうして4人は最後のクリスタルを求め、伝説の空中都市へ挑む決意を固めたのであった。
第6章:風のクリスタル:浮遊城と最後のカオス

飛空艇で砂漠のど真ん中に降り立つと、蜃気楼のように佇むミラージュの塔が見えて来た。光の戦士たちがチャイムを掲げながら塔に入ると、不思議な音色が辺りに響き渡り、何処からともなく「キーン…」という機械音が鳴り始める。
塔の奥に進むと、古代のロボットが突然話しかけてきあ。「……ワタシハ、ルフェイン人ガ残シタロボット…飛空城ヘノ転送装置ヲ管理シテイマス…」かつての高度文明の遺産であるロボットが、今なお稼働していたのである。
ロボットの案内で塔の頂上へ赴くと、そこには巨大な円形装置があった。の戦士たちが装置の上に立つと、眩い光とともに彼らの姿は塔からかき消える。
気がつくと、一行は漆黒の宇宙空間に浮かぶような不思議な空間に立っていた。星々が瞬き、足元には青い星(地上世界)が見下ろせます。こここそ、かつてルフェイン人が作り上げた浮遊城。今は朽ちた機械やガラスの管が散乱し、異形のモンスターが闊歩する危険なダンジョンと化していた。
カッコ良さも備えた”風”のカオス・ティアマット

浮遊城の内部を進む光の戦士たちは、ところどころに残された古代の機械装置を調べ、失われた文明の断片を垣間見る。その中には、宇宙空間まで手を伸ばしたとされる高度技術の記録もあった。
廃墟となった天空都市には静寂が支配していたが、その最上階にて彼らを待ち構えていたのは巨大なドラゴンの魔物ティアマットである。ティアマットは胴体から無数の首が生えた凶悪な姿をしており、猛烈な火炎や雷撃、毒の霧など次々と吐き出してくる。
これまでで最強の敵に、光の戦士たちも総力戦で応じる。天空の城の崩れゆく足場の上で繰り広げられる死闘の末、ついにティアマットの最後の首が絶命の咆哮とともに地に落ちる。こうして風のクリスタルもまた、その清らかな輝きを取り戻した。400年ぶりに世界に風が吹き始め、空には光が満ちて行く。
ティアマットを倒したことで、遂に4つのクリスタル全てに光が戻る。世界各地では、人々が次々と自然の復調を感じ取る。空は澄み渡り、海は静けさを取り戻し、大地は豊かさを蘇らせ、炎は再び暖かな恵みをもたらした。しかし――光の戦士たちの胸には何か引っかかるものが残っている。
そう、これまで戦ってきた4体のカオスはいずれも「今の時代」に現れた者たちだったのだ。本当に世界の闇を断ち切るには、その根源を絶たねばならない。

4人が初めて冒険を始めた場所…コーネリア北のカオスの神殿こそ、まだ残る異変の震源地だったのだ。輝きを取り戻したクリスタルが淡く脈動するとき、4人は神殿の奥から不思議な反応を感じ取る。かつてガーランドを倒した祭壇に立つと、クリスタルが共鳴しあい、一筋の光の渦が現れた。それは時空を超える扉――2000年前の過去へのゲートだったのである!
第7章:2000年前の世界・明かされたタイムループの真実
過去のカオス神殿で復活した4体のカオス

勇気を持って光の渦に踏み込んだ光の戦士たちは、時を超えて遥か昔の世界へと辿り着く。そこは2000年前のカオス神殿。かつて荒れ果てた廃墟だった神殿は、まだ朽ち果てる前の姿を留め、不気味な静けさに包まれていた。
4人が奥へ進むと、そこには信じ難い光景が待っていた。なんと彼らが今しがた倒したはずの4体のカオスたちが、甦った姿で立ちはだかったのである!
過去の世界では、土のカオス・リッチ、火のカオス・マリリス、水のカオス・クラーケン、風のカオス・ティアマットが再び復活し、神殿を護るように配置されていた。それぞれが以前にも増して凄まじい力を振るうが、数々の戦いを経て成長した光の戦士たちに死角はなかった。持てる力を結集し、過去世界のカオスたちを次々と撃破して行く。
全ての元凶・ガーランド

そして神殿の最深部――不吉な黒水晶が佇む祭壇に足を踏み入れた瞬間、4人ははっと息を呑む。そこに立っていたのは、一人の黒騎士。どこかで見覚えのある鋼の甲冑…。ガーランドである!!
4人が驚愕する中、その騎士は低い声で哄笑した。
ククク…待ちかねたぞ、光の戦士たちよ。貴様らが来るのを2000年もの間待っていたのだ!
闇の力が渦巻く中、ガーランドの体がゆっくりと異形へ変貌して行く。禍々しい角と翼を生やし、全身が悪魔と化したその巨体こそ、全ての元凶であるカオスだった。
「愚かな人間どもめ、わしこそがカオス。貴様らが未来で倒したガーランド、その本人だ!」 。光の戦士たちは息を呑む。ガーランドが…カオス?一瞬信じがたい思いが脳裏を過ぎるが、すぐに数々の出来事が一本の線で繋がったのだ。
倒されたはずのガーランドが過去に飛ばされカオスとなり、そして未来に4体のカオスを送り出して自分を蘇らせる――これこそが闇の騎士ガーランドの仕組んだ時間のループだったのである!!

2000年の時を超えて、すべては永遠に繰り返される!
カオス(ガーランド)は憎悪に満ちた咆哮をあげた。彼は死の間際に4体のカオスの力で過去へ逃れ、自らはカオスとして復活、未来へ再び4体のカオスを送り込むことで、自分自身を何度も甦らせていたのである。
この時の鎖によって、ガーランド=カオスは無限の命を得て、世界を永遠に暗黒へ閉ざそうとしていた。光の戦士たちが今ここでカオスを倒さなければ、歴史は繰り返し世界は滅ぶ運命にある。いよいよ最後の戦いの火蓋が切られたのであった。
4つのクリスタルに導かれし光の戦士たちと、1000年を生きた闇のカオスとの決戦は壮絶を極めた。カオスは巨体から繰り出す一撃で大地を揺るがし、火炎を生み出し、津波を起こし、竜巻を起こす、など4体のカオスの力を惜しげもなく披露。
さらに時空をも歪める凄まじい魔力で、次々と回復魔法を打ち消し、自らの傷を癒やして行く。まさに規格外の強さだった。しかし4人も最後の力を振り絞る。互いに満身創痍となりながらも、ついに光の戦士たちが渾身の一太刀をカオスの胸に貫いたとき、長きに渡った戦いに終止符が打たれたのであった。
カオスは断末魔の叫びとともに崩れ落ち、闇の奔流が渦を巻いて消え去って行く。
当たり前の平和が訪れる

こうして世界を縛っていた2000年の闇の鎖は断ち切られた。
眩い光があたりを包み込み、気が付けば光の戦士たちはクリスタルに導かれて元の時代へ送り返された。コーネリアの大地に立つ4人。しかし不思議なことに、人々は誰一人彼らのことを覚えていない。
王国ではセーラ姫誘拐の事件すら初めから「無かったこと」になっており、最初から平和が保たれているのである。
それもそのはず、過去でカオス(ガーランド)を倒したことで歴史そのものが書き換わり、闇の事件は未然に防がれたからである。この世界の人々は、自分たちが一度滅亡しかけた未来にいたことも、救われたことも知らずに生きていくことになるのである。(タイムスリップ系の話って複雑でめちゃくちゃ面白いですよね……)
光の戦士たちは静かにコーネリアの城下町を歩いて行った。かつて彼らを称えた人々が、自分たちに気付かぬまま笑顔で日常を過ごしている。
彼らはそっと微笑み、互いにうなずき合った。自分たちの戦いが無意味だったわけではない。真の平和は確かに訪れたのである。4人は自らが体験した壮大な冒険と戦いの記憶を胸の奥底に仕舞い込んだ。誰も知らない世界の危機を、確かに自分たちは乗り越えたのである。
それはこれから先も人々の中で語り継がれる伝説になるだろう。ドワーフやエルフたち、ドラゴンの民はいつしか『光の戦士の物語』をおとぎ話として子孫に語り継がれるかもしれない。そしてクリスタルの輝きは、人々の心の中で未来永劫失われることなく生き続けるのだろう。
最後に、物語の語り手はそっと囁きかける。
忘れないでほしい…世界の輝きが正しい方向へ向かうように。そして真の4つのクリスタルは、いつもあなたの胸の中にあることを…そう、2000年の時を越えて戦っていたのは君なのだから…
プレイヤー自身にそのメッセージが届けられたとき、『ファイナルファンタジー』の壮大な物語は幕を下ろす。
あとがき

このように、ファミコン版『ファイナルファンタジー』のストーリーは、クリスタルを巡る王道ファンタジーに時間転移とパラドックスというSF的要素を融合させた、当時としては画期的で壮大なものだった。
単純な勧善懲悪に留まらず、ガーランド=カオスという衝撃的などんでん返しと、永遠に続くタイムループの謎 が物語に深みを与えている。
発売当時、多くのプレイヤーがエンディングで明かされる真実に驚かされた。後のFFシリーズでも、クリスタルや光と闇、そして意外性に富んだストーリー展開が伝統となっていくが、その原点がこの第1作。
また、本作には小粋な遊び心や彩り豊かな設定も散りばめられていた。例えばエルフの町の墓地で、「リンクここに眠る」と刻まれた墓標を発見した時には思わず二度見した人も多いことだろう。これは任天堂の『ゼルダの伝説』シリーズ主人公へのオマージュであり、ファンの間で語り草となった隠しネタである。
また、各地で出会うキャラクターたちも印象的でした。盲目の魔女マトーヤが実はコミカルで憎めない性格だったり、踊り子のアリアが旅のヒントをさりげなく教えてくれたり、古代ロボットが孤独に稼働し続けていたり…。
そして極めつけは、浮遊城で稀に遭遇する『古代兵器デスマシーン』。出現率わずか約1%という超レアなこの敵は、ラスボス級の強さを誇りながらストーリーには一切関与しない隠しモンスターとしてプレイヤーを震え上がらせた。そのような細部の要素も含め、本作の世界は当時のゲームとして驚くほど生き生きと描かれていたのである。
物語の最後、誰からも称賛されることなく静かに去っていく光の戦士たちの姿は、どこか寂しさと尊さを孕んでいる。しかしそれ故に、プレイヤーの胸には深い余韻と感動が残った。
「戦っていたのは君なのだから」というメッセージは、プレイヤー自身が物語の当事者であったことを教えてくれる。この演出により、ゲームをクリアした瞬間、自分自身が世界を救った英雄であったかのような不思議な感動が湧き上がった。
『ファイナルファンタジー』はスクウェアの「最後の希望」から生まれた作品だったが、その重厚なストーリーと魅力的な冒険は多くの人々の心を掴み、数々の続編へと紡がれて行った。
光の戦士たちの冒険譚は、今なお色褪せることなくファンタジーRPGの原点として愛されている。クリスタルに導かれし4人の無名の戦士たちが、世界を救う伝説の英雄へと至った物語――それは同時に、プレイヤー一人一人の胸の中で生まれた最初のファンタジーでもあるのだ。

