1996 年に発売された『ポケットモンスター赤・緑』は、交換や対戦を通じて友達同士で盛り上がるゲームとして一世を風靡した。
発売当初はクリア後のおまけ程度だった対戦機能が、プレイヤー同士の研究や公式大会をきっかけに一大コミュニティへと発展。
ところが当時のゲームバランスは現在のシリーズと比べるととても大味で、特定の技やポケモンが突出して強かったのである。
本記事では初代の対戦環境とケンタロスが最強と評された理由をじっくり解説して行こうと思う。
初代対戦環境の特徴
ゲームバランスの偏り
初代ではタイプバランスが極端で、エスパータイプやノーマルタイプなど一部のタイプに有利な仕様となっていた。特にノーマルタイプは「はかいこうせん」や「ふぶき」など強力な技をタイプ一致で撃てることから人気があった。
一方、どく・かくとう・むし・ほのおタイプはまともな攻撃技が少なく存在意義すら危ういほど不遇であり、タイプ間のバランスは現在とは比べ物にならない。
また、特殊攻撃と特殊防御が一本化されていたため、「ドわすれ」で特攻と特防をまとめて二段階上昇させることができ、対戦が極端に大味になった。
当時はまだ通信対戦がゲーム制作の後半で実装されたため、対人戦を意識した調整が行われておらず、対戦バランスは「壊れ」と評されるほど荒削りだったのである。
状態異常と技の仕様
初代最大の問題点が状態異常や技の挙動である。
例えば「ふぶき」は威力120、命中率90%、さらに 30%の確率で相手をこおり状態にするというとんでもない性能を備えていた。
この世代ではこおり状態が自然には回復せず、火炎タイプの攻撃などを受けるまで固まり続けるため、実質的な戦闘不能を意味した。そのためスターミーやガルーラ、カビゴンなど「わざマシン」でふぶきを覚えられるポケモンはこぞって採用され、技自体が環境を支配していたのである。
睡眠も強力で、「ねむり」状態は 1~7ターン継続し、目覚めたターンは行動できない。さらに「かげぶんしん」が 1 回の使用で大幅に回避率を上げるため、運が絡む泥試合が頻発した。
このように状態異常や回避率上昇技が強過ぎたことが、初代の対戦環境を混沌とさせていた。
急所率と素早さ
初代では急所(クリティカルヒット)の発生率がポケモンの素早さに依存しており、計算式は「(素早さ ÷ 2÷ 256」で最大 25%まで跳ね上がる。
つまり素早さ種族値が高いポケモンほど急所に当たる確率も高く、素早さが64以上で「きりさく」を使えばほぼ確定で急所になるほどだった。
これにより素早さの高いポケモンの価値が極端に上昇し、先手を取って相手を倒す戦術が基本となる。
ケンタロスのポテンシャル

種族値と基本性能
ケンタロスはノーマルタイプで、攻撃種族値と素早さ種族値がともに高く設定されている。特に素早さ110という数値はこの世代では上位に位置し、急所率が約 21.5%にも達した。(ちなみに1位はマルマイン)
この高い素早さのおかげで多くのポケモンより先に行動でき、攻撃種族値による火力と相まって相手を一撃で倒すシーンが多かったのである。
さらに、当時は物理攻撃を受ける際の防御と特殊攻撃を受ける際の特殊のステータスが別々に設定されていなかったため、攻撃寄りのポケモンでも特殊耐久が平均的だった。
このことも、攻撃特化のケンタロスが大技を受けても即座に倒れない理由になった。
豊富な攻撃技とカバー範囲
ケンタロスがずば抜けて強かった理由の一つが、覚えられる技の豊富さである。
ノーマルタイプの「のしかかり」と「はかいこうせん」はタイプ一致で威力が増し、さらに「のしかかり」には30%の確率で相手をまひ状態にする効果がある。
まひになった相手は素早さが1/4に低下し、追加ターンを奪えるため、先手を取り続けるケンタロスの攻撃がますます止まらなくなる。
加えて、ケンタロスはノーマルポケモンでありながら「ふぶき」や「じしん」、さらには「10まんボルト」といった技も覚えられる。ふぶきは前述の通り高威力・高命中で3割で凍らせるため、岩・地面タイプのサイドンやゴローニャのような相手を一撃で押し切ることができる。
じしんは電気タイプのサンダースやゴーストタイプのゲンガーへの対策として機能し、環境に多かったエスパータイプや水タイプにも有効な打点となった。
このように、ケンタロスは技範囲が広く、相手の弱点を突く選択肢が豊富だったのである。
はかいこうせんのバグ
初代最大の有名なバグが、はかいこうせんの反動が消える仕様。
通常は1ターン目に攻撃して2ターン目に反動で動けなくなる技だが、初代では相手を倒した場合や「みがわり」を破壊した場合、反動ターンが発生しない。
そのため「のしかかり」で相手をまひさせたり体力を削った後、反動なしのはかいこうせんでとどめを刺すという戦術が非常に強力だった。
このバグは後の作品で修正されているが、当時は公認の仕様として認識されており、ケンタロスをさらに凶悪な存在にしていた。
弱点が実質なかった理由
ノーマルタイプの弱点はかくとうタイプだが、初代ではまともなかくとう技がほとんど存在せず、かくとうポケモンも攻撃性能が低かったため、実質的にケンタロスを止められる専用対策が存在しなかった。
エスパータイプやこおりタイプが主流だった環境では、これらのタイプに強いじしんやふぶきで返り討ちにできるケンタロスが無類の強さを発揮したのである。
こうした環境との相性の良さが、ケンタロスを最強たらしめた大きな要因だった。
実戦でのケンタロス

1997 年に開催された公式大会「ニンテンドウカップ97」では、レベル 50〜55のポケモン 3 匹で合計レベル 155 というルールが採用された。
この大会でケンタロスはほぼ全ての決勝進出者のパーティに採用され 、実質的に使用率 100%近いポケモンとして君臨した。
もともと入手が難しかったため青版推奨(ぎゅうた)と言われるほどだが、それを差し置いても採用する価値があると考えられていた。
当時のトップメタにはスターミーやサンダースなど高速アタッカーがいましたが、これらに対してもケンタロスは遅れを取りません。スターミーに対しては「のしかかり」から「はかいこうせん」で処理が可能で、サンダースなどの電気タイプには「じしん」が刺さります。また、エスパータイプのフーディンはケンタロスより速いものの、物理耐久が低いため「のしかかり」一発で倒されることも珍しくありませんでした。
対策としてはゴーストタイプのゲンガーや、特殊耐久の高いナッシーを採用する方法があった。しかしゲンガーはじしんで大ダメージを受け、ナッシーは「ふぶき」で凍らされる危険がある。
唯一まともに受けられるのは耐久の高いカビゴンだったが、カビゴン自身もノーマルタイプでお互いのはかいこうせんが飛び交う消耗戦になり、確実なメタとは言えなかった。
このように、ケンタロスに対して安定した受けポケモンがほとんど存在しなかったことが、使用率の高さに直結している。
今だからこそ分かる初代環境の面白さ

第二世代以降では悪・鋼タイプの追加や特殊と特防の分離、急所率や一撃技判定の見直しが行われ、初代の壊れたバランスは大幅に是正された。
持ち物や特性の概念が導入され、対戦では役割分担やサイクル戦術が生まれ、単体性能だけでなくパーティ全体のシナジーが重視されている。
その反面、初代特有の大味な環境は再現できなくなり、今振り返ると当時ならではの面白さがある。
バグや仕様の穴だらけだった初代環境では、ケンタロスのような高スペックのポケモンが暴れ回り、技一つで試合が決する光景が日常茶飯事だった。
最新作では考えられないほど極端な戦い方が可能であったため、「壊れ環境だからこそおもしろかった」と感じるファンも多いはず。
初代の対戦バランスの崩壊ぶりは、後の作品への教訓となった。ゲームフリークは第二世代以降で急所率や状態異常の仕様を見直し、壊れ技の性能を調整することで対戦環境を整えた。
また、オンライン対戦の普及に伴い、対戦を意識したデザインが一層重視されるようになった。初代で猛威を振るったケンタロスも、後の世代では他ポケモンの台頭や技範囲の拡大によってトップメタの座を譲り、バランスの変遷を象徴する存在として語り継がれている。
あとがき
初代『ポケットモンスター赤・緑』の対戦環境において、ケンタロスが最強と呼ばれたのは、単に種族値が高かったからではない。
急所率と反動なしバグ、凍り状態の仕様、他タイプの不遇といった複数の要素が噛み合い、環境に完璧に適応したからこそ「最強」の名を欲しいままにした。
現在の作品ではこうした極端な強さは見られないが、だからこそ初代環境のトンデモぶりが際立ち、今でも語り草になっている。
